岩手県遠野市

特色あるサテライトオフィス地域交流【取材日:平成30年8月24日】

テレワークセンターから遠野のみらいを創りだす

遠野みらい創りカレッジ外観

柳田國男の『遠野物語』の舞台として知られる遠野市では平成26年、地域の課題解決や学生の人材育成を目的とする「遠野みらい創りカレッジ」が開設されました。
遠野みらい創りカレッジの活動を促進すべく始められたテレワーク事業では、サテライトオフィスやコワーキングスペースといった設備を旧土淵中学校校舎に設置。市民や県内外の学生にテレワークセンターを利用してもらいながら、存在をPRする活動も行っています。
今回は、同プロジェクトに携わる富士ゼロックス株式会社復興推進室の岸田恭司氏、一般社団法人遠野みらい創りカレッジの有馬尊久氏、遠野市総務企画部ICT担当課長の朝倉宏孝氏の3名にインタビュー。テレワーク導入のきっかけや役割、今後の展望などについて、これまでの運用経験をふまえてお話をうかがいました。

1. テレワーク事業のきっかけとなった「遠野みらい創りカレッジ」

インタビューに応じていただいた富士ゼロックス株式会社復興推進室 岸田恭司さん
富士ゼロックス株式会社復興推進室 岸田恭司さん

まずは、富士ゼロックスが遠野市に拠点を置いた経緯をお聞かせください。

岸田:弊社では地域と密着したCSR活動に力を入れており、その一環として東日本大震災の影響を大きく受けた岩手県への復興支援を展開してきました。
津波で流された紙のカルテに書かれていた患者の情報を新たに共有し合えるようなシステムや、訪問看護で得られた患者の情報を一元化するシステムを提供するなど、様々なアプローチを久慈市や釜石市といった被災地を中心に実施しました。
その中で、沿岸部への後方支援を積極的に行って成果を挙げていた遠野市に出会い、遠野市民と弊社社員との交流事業をスタートさせました。

交流から生まれたプロジェクトや事業はありますか?

岸田:地方創生や地域活性化を目指す上で、「未来の地域リーダーを育てたい」という話題が遠野市民との対話でたびたび挙がりました。ならば人材を育成するプロジェクトを立ち上げようと考え、スタートしたのが「遠野みらい創りカレッジ」です。

中高生プログラムの一環で考えを発表する中高生

遠野みらい創りカレッジで行われているプログラムについて教えてください。

有馬:主に中高生向けのプログラムです。東京の大学生と遠野の高校生が、合宿で異文化交流をするプログラムや、中学生が遠野を題材にした音楽を自分たちで作るプログラムなど、総合学習のような形で取り組んでもらっています。

テーブルを囲みスライドを見る中高生

地元である遠野市について知る機会を作ることで遠野の良さに気づいてもらい、遠野の文化を維持していくことがすべてのプログラムに通ずるテーマです。

2. 閉校した中学校をテレワークセンターとして整備


カレッジ内のコワーキングスペース

遠野みらい創りカレッジを運営していく中で、ふるさとテレワークに応募しようと思ったきっかけは何ですか?

岸田:一つ目は、横浜の営業所から出張する形で行っていた遠野市のCSR活動を、現地を本拠地にしてできないかと考えたこと。二つ目は、遠野みらい創りカレッジのプログラムに参加してくれる首都圏の学生や社会人に対して、遠野市にも仕事環境があることをアピールし、移住者や企業の誘致につなげたいと考えたことです。

サテライトオフィスとしての機能をきちんと完備している。
TV会議などに利用されているサテライトオフィス

どのような準備をされたのでしょうか。

岸田:設備を整えることから始めました。遠野みらい創りカレッジの運営が既に行われていた旧土淵中学校内の教室を利用して、サテライトオフィスやコワーキングスペースを設置。遠野市民や出張中の方など、様々な方が仕事場として利用できるように整備しました。さらに、通信環境へのストレスを極力感じることなくテレワーク環境を利用できるように、ケーブルテレビ経由だった通信設備を光回線に切り替えました。

サテライトオフィスやコワーキングスペースを設置した目的と、どんな事業や活動に利用されているのかをお聞かせください。

岸田:サテライトオフィスは、弊社がテレワークを実践する場として設置しました。オフィスとしての使用に加えて、セキュリティルームとしての役割も果たしています。
また、テレワークの効用や効果を体感できるデモオフィスとしても活用しています。実際に、普段から利用されている遠野市民だけでなく、出張中や帰省中の方の仕事場としての利用も徐々に見られるようになりました。

テレワークのPRや擬似体験としてもらい、より多くの人に活用してもらおうとしている。
テレワークのPRや擬似体験を目的としたコワーキングスペース

コワーキングスペースについては、遠野みらい創りカレッジ参加者や移住希望者などに対して、テレワークのPRや体験に活用したいと考え設置しました。DTP機器や熱転写用プリントを導入していることもあり、冊子印刷や布転写に利用する市民も増えてきています。先日も、子どもが一輪車の大会で着るコスチュームを作るために、お母さんたちがコワーキングスペースを利用するなど、市民が気軽に利用できる環境として新たな役割を見出だしています。

3. 林業支援や被災地域のサポートなど現地でしかできない課題解決が可能に

緑豊かな土地、遠野

テレワークセンターで行われている主な事業についてお聞かせください。

岸田:弊社がテレワークセンターを利用して行っている事業としては、遠野みらい創りカレッジのプログラム支援や、地域活性化を目的とした新規プロジェクト開発などが挙げられます。また、遠野市に定住していることで、林業などの産業振興支援や被災地域において発生した課題の解決などが進めやすくなりました。横浜の事務所にいては、地域の生の声を聞きながら解決策をともに考えることは、時間的になかなかできませんから。

インタビューに応じていただいた一般社団法人遠野みらい創りカレッジ 有馬尊久さん
一般社団法人遠野みらい創りカレッジ 有馬尊久さん

有馬:遠野みらい創りカレッジへの参加者に対しての、テレワーク環境のPRも順調に進んでいると感じますね。テレワークセンター及び遠野みらい創りカレッジの来訪者は毎年増え続け、今年は約5,000人を見込んでいます
その中で、市外からの訪問者は約6割。遠野市民はもちろん、市外からの訪問者にもテレワークセンターをしっかりとアピールできるよう啓発活動を展開していくことが、本テレワーク事業の焦点であり課題だと考えています。

4. 時間の有効活用とストレス減少がテレワークの大きなメリット

自然と都会が同居する遠野市街地
遠野市街

地域でテレワークを行うことのメリットはどんなところだとお考えでしょうか?

岸田:テレワーカーの一人として実感したメリットは、通勤のストレスが全くないこと。東京から横浜に通勤していた頃は、1時間半も通勤に時間を割いていました。ところが、現在の通勤時間は車で10分。満員電車に乗り込むストレスもなくなって、精神的にも安定しましたね。

ストレスが減ったということは、体調にも変化があったのでは?

岸田:まず痩せましたね(笑)夕食の時間が早くなったことが、健康的に痩せることができた要因です。以前は21時や22時に夕食をとる生活を送っていましたが、遠野に移住してからは遅くとも19時台に夕食を食べ終わっています。
夕食後の時間を、地元の方との交流や休息に充てられ、有意義に時間を使えるようになりました

反対に、ふるさとテレワークを通して感じた課題やデメリットはありましたか?

岸田:遠野の方とのコミュニケーションが円滑になった反面、横浜の事業者とのコミュニケーションに苦戦することもあります。Web会議を通した情報共有や報告会は有効ですが、場の雰囲気やニュアンスなどを的確に感じ取るのは難しいですね。
意思疎通がうまくいかないことが原因で、情報がねじ曲がってしまう場合もあるので、なるべく密に情報共有を行うように努めていますが、コミュニケーションのとり方については試行錯誤を繰り返していかなければなりません。

5. U・I・Jターン増加の役割が期待されるテレワーク事業

インタビューに応じていただいた遠野市総務企画部ICT担当課長 朝倉宏孝さん
遠野市総務企画部ICT担当課長 朝倉宏孝さん

遠野市としては、ふるさとテレワークをどう捉えていますか?

朝倉:遠野市ではこれまで、U・I・Jターン・就職をされた方へ3年間家賃の一部補助を行ったり、新卒者を積極的に受け入れている企業に奨励金を交付したりと、U・I・Jターンを意識した取組をいくつか実践してきました。
もちろん、ふるさとテレワークの事業もすぐに結果に結びつくとは限りませんが、「ふるさとテレワーク事業を遠野で行っている」というPRをすることが、U・I・Jターンを検討する一つのきっかけにつながると考えており、遠野へのU・I・Jターンメリットをアピールする指針となりうることが、今後十分に期待できます。

PRの具体的な方法は?

岸田:テレワークが立ち上がった段階でまず行ったのは、ウェブサイトの開設です。また、告知用のチラシを作成し、物産展やアンテナショップなど全国の市町村の情報が集まるような場所に置いてもらいました。Facebookからの情報発信も行っています。

多くの書籍を取りそろえる図書室
図書室は、多岐にわたる事業への活用が期待されている

遠野市のふるさとテレワーク事業の認知度はいかがですか?

岸田:決して高いとは言えません。遠野市民ですら、遠野みらい創りカレッジのことは知っていても、テレワークセンターは知らないという方が多いと聞きます。
また、近隣の市町村の方が遠野に出張に来ても、必要な現場だけ見て、残りの業務を行うために事務所に帰ってしまうそうなんです。テレワークセンターは、出張で遠野にいらっしゃった方や、出張先でも腰を落ち着けて残った業務を片付けたい方にこそ利用してほしい施設なので、PRのパターンやアピール方法を模索していく必要があると感じています。

6. テレワークで再確認した遠野の魅力を未来へつなげたい

遠野市はホップの栽培面積が日本一である。
全国的にも認知度が高い遠野の名産品「ホップ」

最後に、遠野市のふるさとテレワーク事業の今後の展望や、テレワーク導入を検討している企業や個人へのメッセージをお聞かせください。

有馬:テレワークセンターの設備を利用して、遠野みらい創りカレッジで行っているプログラムのバリエーションを豊富にしていく必要があります。
例えば、サテライト講義による若年層向けのIT教育や異文化交流など、挑戦できるプログラムを増やすことができると感じています。また、学生だけでなく、遠野市に住むすべての方がこのテレワークセンターをもっと気軽に利用できるような仕組みもつくっていかなければいけませんね。

遠野には河童伝説がある

朝倉:テレワークセンターを設置している旧土淵中学校校舎は、閉校後、何かに使用してほしいとの声が地元からたびたび挙がっていた場所なんです。その場所を、遠野みらい創りカレッジとテレワークセンターとして再生したことは、地元の方々の喜びにつながったはずですし、地域の活性化にも貢献したと確信しています。
今後もふるさとテレワーク事業を通して、遠野の文化である民俗学の発信拠点や、また市内小中高生の新たな学びの場となったり、遠野の名産物を使った事業の拠点にしたりと、多彩な広がりを見せていってほしいですね。

岸田:テレワークは時間を有効活用する上で、大きな効果をもたらしてくれる制度だと実感しています。残業時間や移動時間が削減され、そのことが社員の健康維持にもつながるのではないでしょうか。
何より、ふるさとテレワークは地方の良さを再認識するきっかけや、その地域の方自身が新たに地元の魅力を知る材料になる。多くの企業がふるさとテレワークを取り入れることで、活気あふれる地方都市が増えていくことを期待しています。

お問合せ先
遠野みらい創りカレッジ 0198-60-1276
遠野市総務企画部ICT担当 0198-62-2111 jyoho@city.tono.iwate.jp

(参考)平成28年度予算補助事業の取組内容はこちら(PDFファイル)