奈良県三郷町

子育て世代地元雇用・地元ワーカー地域交流【取材日:平成30年9月19日】

大阪まで行かなくても働ける! 『奈良サテライトオフィス35』を開設

山間にあるJR大和路線の三郷駅。奥には大和川を渡る橋梁。
JR関西本線(大和路線)の走る三郷駅

今回のふるさとテレワーク事例取材は、奈良県三郷町(さんごうちょう)のJR三郷駅前にある『奈良サテライトオフィス35(さんごう)』を訪れました。平成28年度予算「ふるさとテレワーク推進事業」を活用して平成28年12月にオープンした施設で、長期利用可能な企業オフィススペースや個室ブース、コワーキングスペースが備わっています。企業オフィスや個室ブースは取材時点でほとんど満室と、利便性が高く評価されていることがうかがえます。

お話を伺ったのは、三郷町総務部の安井規雄さんと照海梢さん、施設運営を行うNPO法人紙飛行機の森本裕美さん、佐野円さん、山縣真由美さん、そして株式会社FM.Beeの柴田司郎さんです。

1. 「町で働く場所を増やしてほしい」住民の声を受けてサテライトオフィスを設置

奈良サテライトオフィス35の入る建物はバス停も近い
建物の3階部分が『奈良サテライトオフィス35』

初めに、『奈良サテライトオフィス35』をオープンするまでの経緯をお聞かせください。

照海(三郷町):三郷で「働く場所」を増やしたいと考えたことが始まりでした。
三郷町のある奈良県は「地面を掘れば遺跡が出てくる」と言われるような土地なので(笑)、広い事業用地を確保して企業のオフィスや工場を誘致するのは難しいんです。三郷町もやはり事業用地は少なく、以前に町民から取ったアンケートでは、「働く場所がない」「パートで働きたいけれど近くにお店やオフィスがない」という声が上がりました。実際、町の県外就業率も43.1%(平成27年度)と高くなっており、大阪都市圏に1時間弱かけて通勤する町民が多いですね。

インタビューに応じていただいた三郷町総務課の照海さん
三郷町総務課 照海さん

そこで、「働く場所」をどうやって増やすことができるか検討していた頃、平成27年7月に『日本テレワーク学会』が三郷町で開催され、また同年8月には総務省の『平成27年度ICT地域マネージャー派遣事業』でテレワーク専門家の方に三郷町でご協力いただけると決まり、テレワーク推進の機運が高まりました。専門家の方のアドバイスも頂きながら協議した結果、テレワークセンターを作ることに決まり、平成28年度予算「ふるさとテレワーク推進事業」を活用しました。

受付カウンターはシックで落ち着いた印象。
『35』受付の様子

『35』にはどんな設備があるのですか?

安井(三郷町):定員30人超のコワーキングスペースがあり、誰でも自由に使うことができます。それから、1人用の個室ブースが4室、2人用が2室あります。これらはふるさとテレワーク事業で整備した部分です。
また、三郷町は同時期に内閣府の『地方創生加速化交付金』の対象にもなっていたので、この制度を活用して、企業用の長期利用オフィス3室と会議室スペースも『35』に整備しました。

インタビューに応じていただいた三郷町総務課の安井さん
三郷町総務課 安井さん

2. 企業オフィス常設で施設全体に活気 スタートアップに最適な低料金ブースも

企業オフィススペースのデスクはパーテーションで区切られている
企業オフィススペースの様子

企業オフィスの利用状況はいかがですか?

佐野(紙飛行機):今は3室すべてに入居いただいています。全ての会社を合わせると、累計で月に約140人に利用いただいていますね。
特に、コールセンターを運営されている入居企業様は、およそ10名の地元の方をパートで雇用しているので、多くの方が毎日オフィスを利用しています。常に人がいて施設内に活気があることは、『35』の魅力の1つだと思います。

インタビューに応じていただいたNPO法人紙飛行機の佐野さんと森本さん
NPO法人 紙飛行機の佐野さん(左)と森本さん(右)

二人用個室ブースは横並びで机を共有している
2人用個室ブース

個室ブースの使われ方はいかがでしょうか。

照海:個室ブースは、起業したばかりのスタートアップ企業が利用するケースが多いですね。長期会員になれば月々の使用料は2万円以下と低コストですし、『35』を所在地として法人登記できるのもメリットだと思います。先日までも、ネット通販会社を立ち上げた2名の方が入居されていましたよ。
今は全6ブースのうち5つが使われている状況で、残りの1室にも12月から新しい入居者が入ることに決まっています。想定していた以上に多くの方に使っていただけているのは嬉しいですね。

インタビューに応じていただいたFM.Beeの柴田さんと、NPO紙飛行機の山縣さん
FM.Bee 柴田さん(左)と、NPO紙飛行機の山縣さん(右)

FM.Beeの柴田さんも、『35』の個室ブースをサテライトオフィスとして利用していらっしゃるそうですね。

柴田(FM.Bee):ふるさとテレワーク事業では、当社がテレワークセンターの予約管理システム開発案件を三郷町から受託しました。そこで、開発期間中は週に数回『35』に来て、システム利用状況のヒアリングや開発に関する作業を行っていました。

受付はタブレット端末のインカメラでQRコードを読み取る方式
自動受付システム。タブレットに会員カードのQRコードを読みこませる

テレワークという働き方はいかがでしたか?

柴田:当社は場所の制約が少ないIT開発が主業務で、以前から社内でテレワーク勤務を推奨していたので、今回も問題は全くありませんでした。私自身の自宅も奈良県にあり大阪本社までは片道2時間かかるので、自宅から近い『35』で働くのはとても便利でしたね。

3. 毎日『35』で働く人も! 「近さ」や「落ち着いた雰囲気」が好評

コワーキングスペースは数人掛けのデスクがあり、奥には打ち合わせスペースもある
コワーキングスペース

コワーキングスペースの利用状況はいかがでしょうか? 先ほども、10時にオープンしてから間もなく利用者の方がいらっしゃいましたね。

森本(紙飛行機):今は月に60人ほどの方に利用いただいています。「勤務先は大阪だが、社外でも仕事ができるから必要に応じて利用する」というドロップイン(一時使用)が多いですね。
アンケートによれば町民よりもむしろ町外在住の利用者が多いです。通勤途中に見た看板やSNSで『35』を知り、訪ねてくださるケースをよく聞きます。中には、コワーキングスペースの長期利用契約をして、平日は毎日ここで仕事をする方もいらっしゃいますよ。

コワーキングスペースにてノートパソコンでで仕事に取り組む男性
コワーキングスペース利用者の男性

『35』で働くメリットはどんなことでしょうか?

照海:町民にとっては「近さ」ですね。小さなお子さんを持つ女性は、「家から近いおかげで子どもの所にいつでも駆けつけられる」という声を頂きました。また、「家にいると仕事以外のことを始めてしまうが、『35』では仕事に集中できる」とも言っていましたね。女性は、お子さんの世話をしなくてよい時間帯に『35』で仕事をこなすという利用方法が多いようです。
町外の方からは、「大阪のコワーキングスペースよりも料金がリーズナブル」、「静かで落ち着いた雰囲気だから、自分も作業に集中できる」とお聞きしています。

受付とコワーキングスペース。観葉植物や園芸用のフェンスも配置され程よい空間が保たれている

山縣(紙飛行機):観葉植物や園芸用フェンスも置いて、利用者様同士が程よい距離感を保てるように工夫しています。開設当初はどちらも置いていなかったのですが、利用者の声を聞いて設置しました。元々はBGMも流していなかったんですが、利用者の意見を聞いて取り入れたんです。

利用者の声を聞きながら、より良い仕事環境を作れるように改善を進めているんですね。

森本:施設の日々の運営を任せていただいているので、利用者の方に少しでも快適に過ごしていただけるようにするのが私たちの目標です。
Facebookを通じたイベントなどの情報発信も行っているので、まだ来たことがない人にも『35』に興味を持っていただき、ぜひ利用していただきたいと思っています。

4. 『35』の利用者たちがプログラミング教室を開催! 人のつながりが生まれる場所に

35で開催した子供向けのイベント。ノートパソコンに向かって作業する子供たち。
『35』で開催したイベントの様子(『35』Facebookページから引用)

SNSでの情報発信のほか、どんな方法で『35』をPRされていますか?

安井:三郷町は、環境省の『COOL CHOICE運動』に賛同しており、その一環で子ども向けの地球温暖化啓発イベントを『35』で開催しました。もちろん、イベントの一番の狙いは子どもたちの環境意識を高めることでしたが、開催場所に『35』を選んだのは、お子さんと一緒に来る親御さんの『35』認知度を上げる狙いもあってのことです。
実際、開催後に取ったアンケートでは「サテライトオフィスに来てみたかったからイベントに参加した」という参加理由が、大人からは最も多く見られました。

35で開催するイベントは掲示されている。
『35』で開催するプログラミング教室やセミナーのパンフレット

ほかにはどのようなイベントを開いていらっしゃいますか?

照海:今年3月には、町からも支援させていただいた『CoderDojo三郷』という子ども向けプログラミング教室がスタートしました。実は、この教室を立ち上げたのは教室の始まる前から『35』を利用していた地元の方々なんです。『35』でお知り合いになったと伺っています。『35』という場所を起点に、新たな人のつながりが生まれているんです。

安井:以前に一度、利用者の懇親会を開催したところおよそ30人の方に来ていただけました。『35』や三郷町に対するご要望や改善点を伺えただけでなく、利用者同士でも「どうすれば『35』はもっと働きやすい場所になるか」「三郷町の観光アプリを開発したら面白いかも」など、多様な意見交換をされていました。利用者の方々が『35』や三郷町について真剣に考えてくださっているのが知れたのは良かったですね。有意義なイベントだったので、今後も定期的に開催できればと思っています。

5. 利用者の拡大や情報発信を通じて人や仕事が集まる場にしたい

コワーキングスペースにて開催されたセミナー。多数の方が参加された。
取材当日に開かれた働き方改革セミナーの様子

最後に、『35』をどんな場所にしていきたいか今後のご展望をお聞かせください。

照海:三郷町が単独で行えることには限度もあるので、奈良県や県内市町村との連携も重視しています。テレワーク・デイズ2018の期間には、三郷町長と生駒市長の遠隔対談や、生駒市と共催したセミナーの遠隔同時配信も行いました。
 
自治体同士で緊密に連携しながら、大阪都市圏の企業を中心に、奈良県内のサテライトオフィス利用の便利さを訴求していければと思っています。アイディア段階ではありますが、「奈良県に住む社員が、福利厚生の一環として県内のサテライトオフィスでテレワークできる」などの使い方を提案していきたいです。

安井:『35』は、最初のコンセプトである「三郷町の新しい働く場所」として発展を継続するのと同時に、せっかく町内外の方から親しんでいただいている場所ですから、町からの情報発信の場としても活用したいと考えています。
 
オープンから現在までのおよそ1年半で、事業やイベントを通じて様々な声を頂き少しずつ改善を続けてきました。今後も利用者のことを考えながら、町内外のいろいろな人、仕事、情報が集まる場を作りあげたいと思います。

お問合せ先

三郷町 総務課:https://www.town.sango.nara.jp/
NPO法人 紙飛行機:https://narasatellite35.jp/
株式会社FM.Bee:http://www.fmbee.com/

(参考)平成28年度予算補助事業の取組内容はこちら(PDFファイル)