徳島県鳴門市

地元雇用・地元ワーカー障害者就労支援【取材日:平成30年10月5日】

ふるさとテレワークは多くの障害者にも理想的な働き方
在宅勤務の正社員雇用を増やしたい

大きな三角屋根のログハウス。庭には大きな木が立っている。

今回のふるさとテレワーク事例の舞台は、徳島県鳴門市。渦潮の見られる鳴門海峡がよく知られています。
そんな鳴門市の郊外に拠点を構えているのが、NPO法人『JCI Teleworkers’ Network』(以下、JCI)です。障害者のテレワーク支援を目的に、まだテレワークへの注目度が高くなかった平成11年に早くも設立されました。主な活動は、会員への仕事紹介や職業トレーニングです。

ハス畑に囲まれたJCI事務局を訪れ、JCI理事長の猪子和幸氏、事務局員の鈴木雅彦氏と村上晶一氏からお話を伺いました。

1. 「『職業生活弱者』のテレワークを支援したい」 退職金でJCIを設立

インタビューに応じていただいたJCIの猪子理事長
JCI 猪子理事長

まず初めに、JCI Teleworkers’ Networkについてお聞かせください。

猪子:私は元々、平成11年3月まで高校の教員をしていたのですが、定年退職した翌日の4月1日にさっそく、頂いたばかりの退職金をつぎ込んで(笑)このJCIを設立しました。
 
JCI設立の目的は、障害者などのいわゆる「職業生活弱者」の自立を、テレワークやICT技術を通して支援することです。彼らは、身体障害や対人関係形成の観点から、在宅テレワークでこそ最も能率良く仕事がこなせることが多いのですが、当時はまだ彼らのためのテレワーク環境が整っているとは言えない状況でした。そこで、彼らのテレワーク環境を作って経済的自立を支援するために、JCIを立ち上げたのです。

およそ二十年も前からテレワークの可能性に注目されていたんですね! 具体的にはどんなご活動を?

猪子: 事務局が自治体や民間企業から受注した仕事を会員用ウェブサイトで公開したら、JCIに入会している障害者の方々は自らの能力に応じて仕事にエントリーするというかたちで、会員に仕事を紹介しています。
 
JCI会員には、知的障害や重度の身体障害などのいろいろな障害特性を持つ人間がいて、こなせる仕事が各人で違いますから、仕事内容も多様です。たとえばパンフレットなどの製本や、名刺貼付用点字シールの印刷、Webサイト制作の仕事もあります。また、Webサイトが誰にでも理解しやすく作られているかチェックする、Webアクセシビリティ検査の仕事も長年受注してきました。

目が不自由の方でも名刺にある情報がわかるようになっている
猪子理事長の点字付き名刺

会員の皆さんにはどんなトレーニングをされているのですか?

村上:それぞれの会員の能力や適性に応じて、鳴門UPセンターというJCIの施設で行っています。オリジナルの教材を使うこともありますね。私は最近は、印刷作業や反訳作業(テープ起こし)を教えたり、教材を作ったりすることが多いです。

インタビューに応じていただいたJCI事務局員の村上さん
JCI事務局員 村上さん

会員の皆さんはどこで仕事をされることが多いですか?

猪子:自宅ですることが多くて、集まって仕事をする機会はそれほど多くないですね。会員の住む場所も徳島県内には限らず、北海道から九州までおります。

会員の皆さんはどんなきっかけでJCIを知るのでしょう?

猪子:しばしばあるのは、職業生活が困難なものの仕事をしたいという人が、メディアや口コミでJCIを知り、飛び込みでここを訪れるケースです。いま同席している鈴木もそうでしたよ。

インタビューに応じていただいたJCI事務局員の鈴木さん
JCI事務局員 鈴木さん

鈴木:私はJCIに入る前、通っていた高等専門学校の卒業を目前に就職活動中でしたが、あまりうまくいっていませんでした。筋ジストロフィーのために車椅子を使っていることも理由だったかもしれません。そんなときに新聞でJCIを知り、さっそく事務局を訪れ入会しました。
 
自宅からJCIに行くときは自分で車を運転しています。大きなハス畑の間の中の狭い道を通って事務局に着きます。
以前にテレビ局の人が長期取材でJCIに通っていたときは、花が咲いているハス畑の合間を運転するところを撮りたいということで、何度も猪子理事長に電話して花の咲き具合を訊いていましたね。でもその年は開花が遅かったから、「ハスはもう咲きましたか?」「いや、まだですなぁ」という会話の繰り返しで、面白かったので印象に残っています(笑)。

一面に葉を大きく広げるハス
JCI事務局の周りにはハス畑が広がっている

2. 障害者の完全在宅雇用を増やすカギはWebアクセシビリティ検査

総務省地方支分部局からの表彰状
テレワークによる障害者支援について、総務省の地方支分部局からJCIに贈られた表彰状

JCI会員の中には、正社員として民間企業に雇用されている障害者の方がいるそうですね。

猪子:JCI会員を正社員として初めて雇用したのは、株式会社インフォ・クリエイツという、Webアクセシビリティ検査が主事業の会社です。在宅勤務を認める雇用契約を結んでくださいました。
 
雇用された会員はJCIで長年Webアクセシビリティ検査の仕事をしていたので、経験が評価されたのです。彼は下半身や腕の一部に障害があって在宅勤務していますが、会社からもその働きぶりを評価されています。
 
また、株式会社トラストバンクでもJCIから7名が正社員として働いています。最近も新たに2名の人材を紹介したところです。
 
それから、今年(平成30年)2月に設立されたNULアクセシビリティ株式会社という企業にも、身体や精神に障害をもつ5名のJCI会員が採用されました。みな、鈴木がアクセシビリティ検査の指導を長年してきた会員たちです。雇用条件も、在宅勤務前提のフレックスタイム制で、コアタイムもないということで、会員の事情を多分に考慮してくださっています。

NULアクセシビリティ株式会社入社式の様子。
NULアクセシビリティ株式会社入社式での記念撮影

3社の企業でJCI会員が正社員として雇用されて、在宅で働いているのですね。

猪子:障害者の在宅雇用は、障害者にとってメリットが大きいのはもちろん、雇用側にも投資が少なくて済むメリットがあります。特例子会社を運営するときも、作業所のような設備を用意する必要がないわけです。実際、NULアクセシビリティの本社も都内にありますね。

対面のコミュニケーション機会の少なさがテレワークでよく挙げられる課題ですが、会員の皆さんが雇用されるに当たっては、JCIから何かサポートをされたのでしょうか?

猪子:確かに、東京の会社が徳島にいる社員の作業状況や健康状態を把握するのは簡単とは言えません。
そこで、雇用契約の締結に当たっては、私たちJCI事務局が会員をオンサイトでサポートすることを提案しました。必要に応じてJCIが直接社員に会い、仕事の進捗管理や業務知識のフォローアップ、体調管理を行うようにしたのです。
 
そこで、必要なときはいつでも会いに行けるようにと、5名の社員は鳴門市や徳島市在住の方々です。

コウノトリの写真2枚と、その下にはコウノトリの解説がある
鳴門の田園地帯にはコウノトリが飛来する

今年(平成30年)7月にはアクセシビリティを事業テーマとする一般社団法人を新たに設立されたそうですが、どんな狙いが?

猪子:アクセシビリティ検査を仕事とする在宅勤務を、障害者雇用の好事例として全国に広めたいと考えていますが、オンサイトヘルプの必要からJCI単独では難しいところです。
 
そこでこの度、北海道から沖縄まで日本各地に拠点を持つ5つのNPO法人と5社の民間企業に参加いただき、一般社団法人アクセシビリティ協会を設立しました。
 
障害者雇用支援のノウハウや経験、アクセシビリティ検査に関する人材育成の方法など、私たちが他団体と共有することで、日本各地にいる障害者の在宅雇用が進むことを期待しています。

3. ふるテレ事業でテレワークセンター設置&クラウドサーバーもスケールアップ

機器類がケーブルでつながれ構築されているクラウドサーバー
『とくしまテレワークサポートセンター』に設置されているクラウドサーバー

テレワーク普及に向けて精力的に活動されるなかで、平成26年度補正予算『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』も活用してテレワーク推進に役立てたのですね。ふるさとテレワーク事業ではどんな取組を?

猪子:この事務局の近くにある旧川崎小学校の校舎を借りて、『とくしまテレワークサポートセンター』を開設しました。イベントや講習会ではここのコワーキングスペースをよく使っています。

イベントにも使用されるほど広いコワーキングスペース
コワーキングスペース。イベントや講習会で使われることも多い

もともと、総務省の平成22年度『地域雇用創造ICT絆プロジェクト』で、テレワーク推進のためのクラウドサーバーを都内のデータセンターに構築したのですが、ふるさとテレワーク事業ではこのサーバーを鳴門に移し、かつスケールアップさせました。
 
実作業にあたっては、インフォ・クリエイツのシステムエンジニアが鳴門に長期滞在し、サーバー移転や保守を担当してくださいました。
 
本事業で強化したサーバーの機能を、一年間無料で民間企業に貸し出す「おためしテレワーク」事業も行っています。現在まで県内の中小企業10社への貸し出し事例があります。
 
使い方の例としては、徳島市内の本社まで通勤に時間がかかる社員が、サーバーに置かれた資料に自宅からアクセスし、在宅のままサーバー上で作業するというものです。通勤が不要になり、サーバー上で仕事が完結するためセキュリティも安心です。
クラウドサーバーを活用して、CADやDTPの仕事を行う障害者の在宅雇用もこれから促進したいですね。

在宅のPC作業はかなり一般的になっていますし、実現性は高いですね。

猪子:JCIではWebサイト作成も受注していて、鈴木を中心に対応しています。
ふるさとテレワーク事業の中でも、県内でオオサンショウウオの研究をしている方がいまして、その研究についてWebサイトを作りました
県の教育委員会からも依頼いただき、外国にルーツを持つ子どもの受入れに関するWebサイトを作成しました。Webサイト作成の仕事は今も引き続き活発で、今年も自治体から何件かWebサイト管理の相談を受けています。

4. e-ラーニング活用で職業訓練も在宅でOK

高徳線と鳴門線の分岐駅の池谷駅に汽車が停車している。
JR池谷駅。JCI事務局から徒歩5分

テレワーク促進について、ふるさとテレワーク事業のほかに近年はどんなことをしていますか?

猪子:一つは、テレワーカーやテレワークコーディネイターを養成する職業訓練コースです。厚生労働省の平成27年度『地域創生人材育成事業』に徳島県が採択されたことを受け、県から受注しました。
 
開設したのは、DTPソフトや画像編集ソフトなどのテレワークに適したスキルを教える6ヶ月間のe-ラーニングコースです。

障がい者職業訓練e-ラーニングコース訓練生募集
職業訓練コースのパンフレット(平成30年度)

このコースは身体障害や精神・知的障害を持つ人が主な対象でしたが、彼らは自宅から離れた場所を訪れたり、集団での講座を受けるのが困難なことが多いのです。トレーニング方法としてはe-ラーニングが最適でした。

e-ラーニングとなると動画教材の作成が必要になりますね。

猪子:この人材養成コースに取り組む前から、私たちはJCI Virtual School(JVS)というe-ラーニングシステムを作っていて、経験やノウハウがあったので問題ありませんでした。Moodleというe-ラーニング教材を作るためのオープンソースを使っています。

トレーニングから実際の業務まで、どの段階でも在宅対応が可能な職業訓練をされたのですね。

猪子:その通りです。
もう一つの取組は、特別支援学校の生徒に対する職業訓練です。県立鴨島支援学校の生徒に、Webアクセシビリティ検査のトレーニングをe-ラーニングで行っています。サポートしてくださる先生が学校に一人いれば、実施に問題はありません。
 
現在、支援学校の生徒の多くは「就職」という言葉から引き離されていますが、Webアクセシビリティ検査技術者の資格が手に入り、実業務をこなせる能力を身につけられれば、就職や経済的自立の可能性を大きく高められます。

トレーニングの進め方など、具体的にお聞きできるでしょうか。

鈴木:高校3年生の2名を、今年(平成30年)9月からトレーニングしています。車椅子が必要な重度の障害者です。
トレーニングの最初の2日間はJCIの施設に来てもらい、ガイダンスや、ソフトウェアやハードウェアの環境整備を行いました。
次の週からJVSに公開した動画マニュアルで授業を受け始めてもらいました。動画では、私が実際に検査の仕事する様子をキャプチャーしています。
生徒からの質問や学習報告は、JVSの掲示板に書いてもらい、私から返答するやり方です。実習の最終日にはもう一度JCIに来てもらって、総まとめや疑問点の解消を行います。
 
実は一人の生徒が一度、体調不良で実習を中断したのですが、その後体調も良くなり、最後まで学習する意思を改めて示してくれました。e-ラーニングなので、学習が中断した場合もトレーニングを受けそびれずに済みますね。
 
生徒たちは、「PCを使う仕事の経験は初めてで、最初は難しく感じたけど、続けるうちにコツもわかって面白くなった」と話してくれて、私たちも嬉しかったです。

猪子:生徒の一人は内臓系に重い障害を持っているのですが、とても熱心に学習しています。能力を伸ばした彼らをいずれ民間企業に紹介することも検討しています。
彼らのような人たちが、職業生活弱者ではなく一人の職業人として胸を張って生きていけるようにしたいと思っています。
 
私は、テレワークというのは職業生活弱者、そして健常者にとっても理想的な働き方だと考えています。JCIではその先進事例を作っているつもりですから、ぜひみなさんも一緒にテレワークをやりましょう。

本日はありがとうございました。

お問合せ先

JCI Teleworkers’ Network:http://jci-tn.jp/

(参考)平成26年度補正予算地域実証事業の取組内容はこちら(PDFファイル)