新潟県上越市

地元雇用・地元ワーカー特色あるサテライトオフィス地域交流【取材日:平成30年9月7日】

新製品開発・人材獲得・地域貢献を担う「新たな開発拠点」をテレワークで実現

テレワーク拠点にしている雁木造の町家

新潟県上越市高田の本町通りは、通り沿いに町家の軒下が連なる新潟地方独特の「雁木造(がんぎづくり)」の景観が印象的です。そんな趣ある町家をテレワーク拠点にしているのが、クラウド構築やアプリケーション開発で高い技術力を誇る株式会社テラスカイです。
上越市との協力体制で実現したテラスカイのテレワーク拠点「上越サテライトオフィス」について、実際にサテライトオフィスで働くテラスカイの白石聡氏、そして上越市産業観光部産業振興課の平原謙一氏、戸松隆宏氏にお話を伺いました。

1. 「地元に拠点を」というビジョンが推進事業と重なった

レンガ造りで雰囲気の良い駅舎
高田駅:北陸新幹線上越妙高駅からのアクセスの良さも魅力

テラスカイが上越市にテレワーク拠点を構えるきっかけは何だったのでしょうか?

平原:テラスカイさんの佐藤社長がお隣の妙高市のご出身で、高校はこの高田に通っていたというご縁があるんです。当時のご友人とは今でも交流があり、地元に拠点を構えるビジョンが、かねてからあったと伺っています。
そんなバックグラウンドから、「クラウドを活かしたテレワーク事業をしたい」ということで、平成27年度の始め頃に産業振興課にご連絡いただいたのがことの始まりでした。

インタビューを受ける上越市産業振興課の平原さん
上越市産業振興課:平原さん

サテライトオフィスの開設は平成29年4月ですが、どのような準備をされましたか?

平原:実は、当初は平成26年度補正予算「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」(*平成27年度に実施)として認定を受けたかったのですが、お話をいただいてから申請までの時間がほとんどなく、申請はしたものの採択されなかった経緯があるんです(笑)。
その後、平成27年10月頃に市で改めて「平成28年度ふるさとテレワーク推進事業」の申請を目指して、再びテラスカイさんに相談しました。ですから、具体的にプロジェクトが立ち上がってから開設まで一年半くらい(平成27年10月〜29年4月)になります。

こちらのオフィスは、地域特有の「雁木造」の町家をリノベーションして作られていますが、歴史的な町家を活用する構想は当初からあったのですか?

雪国ならではの工夫が詰まった雁木造
雁木造:積雪期でも通行が可能なように、せり出した屋根が連なっている

平原:いいえ、最初はご入居先として、商店街の空き店舗を想定していたんです。ただ、テラスカイさんがサテライトオフィスを整備する上で「地元に溶け込むこと」と「社員が働きやすく、働きたいと思ってもらえる場所となること」を非常に重視されていたんですね。そこで市が提案したものの1つが、この地域の歴史的建築物である雁木造の町家の活用だったのです。
結果的に、テラスカイさんのような先進的な取組をされている会社が歴史的建築物を現代の仕事場として使用することで、伝統の保存継承に大きな貢献をしていただいていると考えています。

2. 挑戦するモチベーションが『Made in 上越』製品を実現

インタビューを受けるテラスカイ上越サテライトオフィス社員の白石さん
テラスカイ上越サテライトオフィス社員:白石さん

テラスカイさんは全国に事業所をお持ちですが、「上越サテライトオフィス」の特色はどのようなところにありますか?

白石:上越サテライトオフィスは営業機能を持たない「開発のみの拠点」であることが大きな特色です。

U・Iターン含め、所属スタッフはこの高田に移住しているそうですね。

白石:はい。昨年の開設当初はUターン2人とIターン2人の計4人で、現在はUターン3人、Iターン1人、地元採用1人の計5人が働いています。私自身もIターンで上越市に移住しました。
元々「新潟に拠点を」という意向が社長にあったので、テラスカイ設立初期から新潟地域での人材採用には積極的でした。上越オフィスの構想もかなり前からあったものの、なかなか実現できずにいたので、公的な事業をきっかけに立ち上げることができたのは幸運だったと思います。上越オフィスができたことを聞き、Uターンを目的に転職してきた人もいるくらいです(笑)。

地元で働きたい、という要望に対して適切な環境が提供されるようになったことは素晴らしいことですね。拠点開設から一年半ほどですが、仕事環境としてはいかがですか?

白石:とても静かな環境で仕事ができるのは大きなメリットだと感じます。集中して業務に取り組めるので、品質や業務効率の向上も感じています。あくまで私個人の話ではありますが、残業時間も減っています。
また、スタッフが口を揃えて言うのはやはり「通勤のしやすさ」ですね。私は徒歩圏内に家を借りていますし、Uターンのスタッフは実家からの車通勤。通勤時間は大幅に短縮されました。打合せで東京に行くと、通勤電車の辛さが身にしみるようになりました(笑)。

木目調で優しい雰囲気のある広い会議室
自然光の入る広々とした会議室を確保。テレビ会議機能を備え、東京本社や支社とコミュニケーションできる

開発業務において、テレワークで不便を感じることはありますか?

白石:特にパフォーマンスが悪くなることはないですね。打合せはテレビ会議で行えますし、必要があれば東京まで二時間ほどで出張できます。一年半やってみて、最近はそのような出張もどんどん少なくなってきていますね。
メンバーはもちろん、我々と連携している本社スタッフも、テレワークという働き方に順応してきているのだと思います。

開発の成果はいかがですか?

白石:すでに『Made in 上越』のアプリケーションを3つ開発しました。「クラウドサイン Salesforce版」、「ChoiceRESERVE 予約連携」、「SuPICE」です(※「SuPICE」は東京メンバーと共同開発)。

3つもあるのですね! 少人数でここまでの実績を生み出せたのは、上越サテライトオフィスの環境にも関わっていると思いますか?

白石:上越の風土と環境が良い影響を与えてくれたと思います。製品を作り出すのはやはり大変な仕事ですが、新しい拠点の立ち上げということでモチベーションも高かったと思います。「新しいことをやってみたい」という人が集まっていたので、集中できる環境のもと、開発に打ち込めたのだと思います。

3. 築130年の町家がIT開発を支える先端オフィスに


吹き抜けの下にはカウンターキッチンスペース。昼食時に簡単な調理をすることもあるそう

この雁木造の建物は、外観的な特徴だけでなく、入った時の奥行きにも驚かされます。すごく落ち着く空間ですね。

白石:築130年ほどの古民家をリノベーションしています。伝統的な建築を可能な限りそのまま活かしていますが、開発業務の中心となるオフィスは少し天井を高くするなど、働きやすい環境作りのために適宜手を加えています。

開発ルームの内装。できる限り伝統的な建築を活かしたつくりになっている。
入り口のある道路側からは奥まったところにある開発ルーム。とても静かな環境で作業できる

掘りごたつのある和室スペースの内装。窓からはきれいな庭も見ることができる。
ひとりで集中したい時や合宿などでは、掘りごたつのある和室スペースが活用されている

オフィス開設は平成29年4月ですが、「ふるさとテレワーク推進事業」の採択から開設にいたるまで、準備はどのように進めていきましたか?

平原:本格的に取り組み出したのは平成28年7月からです。「ふるさとテレワーク推進事業」の予算を活用して、ハード面の整備を進めていきました。

白石:私たちのようなIT開発企業にとって、セキュリティの確保は大きな課題です。導入したシステムによって、専用のカードがないとオフィスに入室できないようになっています。また、入口も専用のキーを差さなければ警報が鳴るようになっており、社内の情報を守る環境を整えています。

IT開発企業らしくセキュリティ機器は完備されている。
古風な壁に最先端のセキュリティの目が光る

もうひとつ、年間を通じて快適な業務環境を実現するために空調設備のアップデートが欠かせませんでした。この地域の冬は寒さが厳しく雪も多いですから、寒さ対策は重要です。一方で、夏場はエアコン付近の結露で悩まされることもありました。
本来の業務以外の部分で大変なこともありましたが、1年をかけて都度解決していき、今では困ることも少なくなりました。

ふとした廊下でさえ歴史が感じられる。
オフィスから会議室に続く渡り廊下も、歴史を感じさせてくれる

この古民家をテレワークオフィスとして使用することについて、地元の方々からの印象はいかがでしょうか?

平原:オフィスとして利用されることで歴史的建築物を守っていける点についてはもちろん皆感謝しています。それだけでなく、テラスカイの皆さんは地域の集まりにも積極的に参加してくださるので、地域住民の皆さんもとても喜んでいますね。上越まつりでは、各町内会が神輿を担いで回るのですが、この辺りは高齢者が多いので担ぎ手の確保も大変なんです。

お話を伺っていて、テラスカイの皆さんと上越市の職員の皆さんが、本当に「腹を割って」コミュニケーションされているのが伝わってきます。

平原:テラスカイさんのご意見は、上越市としても今後のテレワークや移住支援事業を進める上での参考になります。他の企業に対しても、同様の試みを継続していくのであれば、メリット・デメリットをちゃんと説明する必要があります。そのためにもお互いの立場的なハードルをできるだけなくし、本音で話せるコミュニケーションが重要だと思っています。
くだけた場だからこそ、現状の課題などを率直にご意見いただけることもあり、定期的に交流の場を設けることの重要さを感じています。

白石:私自身はIターンで上越市にゆかりがないので、そういう試みは非常に助かっています。ビジネスでのお付き合いだけでなく、プライベートでも遊んでいただくこと等含めて、このサテライトオフィスを起点にポジティブな交流が生まれています

4. 出前授業で地域の小中学校と交流! 未来の上越プログラマーを育てる

新しい試みとして、子供向けのプログラミング教室を開催されているそうですね。

戸松:テラスカイさん主催・市が共催で、本オフィスの1Fで行っています。これまでに3回実施しました。特に宣伝はしていませんが、回を重ねる毎に参加人数も増えています。

インタビューを受ける上越市産業振興課の戸松さん
上越市産業振興課:戸松さん

きっかけはどういうものだったのですか?

白石:2020年のプログラミング教育必修化の流れを受けて、テラスカイ本社から提案がありました。上越市にご相談したところ、ぜひということでしたので、スムーズに開催が実現しました。
プログラム自体は本社で作り、我々サテライトオフィスのメンバーは、イベントの運営や子供たちへの指導を中心に担当しています。当日は東京本社からも何人か支援に来てもらっています。

開発の業務以外でも地域の方とのつながりが強くなってきているのですね。今後の展開として考えられているものはありますか?

白石:今までは小学校低学年向けに行っていましたが、加えて今後は小学校・中学校に社員が出向き、ITと仕事について話をする「出前授業」を計画しています。学校からも関心を持っていただいており、継続して実施していきたいと思っています。
サテライトオフィスを通じて自治体の方とも近い距離感で交流できているからこそ、良いモデルケースを作れたと思いますね。

スクリーンや椅子などを備え、プログラミング教室などのイベントを開催できるスペースとして使用することもできる。
プログラミング教室を開催した1Fのエントランス

5. テレワーク拠点を「働く人のまち」振興のきっかけに

高田駅に停車している、えちごトキめき鉄道の電車とイベント兼用ディーゼルカー
高田駅プラットフォーム

サテライトオフィスの今後ですが、現地での採用活動などについてはいかがでしょうか?

白石:会社説明会でもこのサテライトオフィスのことを紹介していて、今年は新潟出身の学生が2名入社しており、将来的には新潟に戻りたいと言ってくれているようです。
個人的にはサテライトオフィスの人員をもっと増やしていきたいと考えています。新卒採用はもちろんですが、即戦力となる中途採用も行って開発力を高めていけたらと考えています。

市としては、テレワーク拠点としての上越市をどのようにPRしていますか?

平原:興味を持ってくださった企業にパンフレットをお渡ししたり、テレワークに関するイベントに出展したりしています。

テレワーク拠点としてのPRの一環で作成したパンフレット
この地で「はたらく×くらす」ことのメリットを伝えるパンフレットも作成した

実は、このパンフレットを作成してくれたのは地元の業者さんなんですが、その方も東京で広告代理店に勤めてUターンされた方なんです。Uターンされた方はいろいろな知識や技能を持っているので、テレワークを通じた活動が私たちにとっての刺激にもなっています。

徳川家康の六男、松平忠輝の居城である高田城。石垣が築かれないこの城は、続日本100名城にも選出されている。
城下町としても知られる高田は古くから「働く人のまち」でもあった

最後に、これから上越市をどのような場所にしたいと思われますか?

平原:このサテライトオフィスが位置する本町通りは市のメインストリートですが、以前に比べて元気がなくなってきていますし、高齢者も増えています。しかし市としては、ここが上越の顔、そして歴史を守っていく要だと思っています。この地域はもともと職人や商売の町で、これからも「働く人のまち」であり続けてほしい。働く人が増え、住む人が増え、その人たちによって地域が活性化していく流れを作っていきたいと思います。

貴重なお話をありがとうございました。

お問合せ先

株式会社テラスカイ:
03-5255-3410(代表) https://www.terrasky.co.jp/
上越市・産業振興課産業観光部:
025-526-5111 http://www.city.joetsu.niigata.jp/

(参考)平成28年度予算補助事業の取組内容はこちら(PDFファイル)