北海道別海町

ワーケーション地域交流【取材日:平成30年10月5日】

テレワークを起点に移住促進の取組を加速させた“酪農の町・別海”

広大な草原が広がり、空には太陽の周りに虹の輪(ハロ)ができることもある。

北海道東部。太平洋の先には北方領土 国後島を望む別海町は、「町」としては国内3位という屈指の広さを誇ります。見渡す限りの広大な牧場と牧草地。生乳生産量では全国1位を誇る酪農王国で、平成27年からテレワークの取組がスタートしました。
テレワーク拠点の一つになっている光進テレワークセンター(旧光進小中学校)で、別海町総務部の金澤亮太氏、テレワーク被験者として3年前に移住し現在は移住支援活動を行う、ほらり協議会の廣田洋一氏、施設のコンサル・IT環境構築などを担当した株式会社オーレンスの廣島勝洋氏、地域おこし協力隊として3年前に別海に移住した倉持龍太郎氏の4名に、3年間の取組と、そこから生まれた新しいムーブメントについて聞きました。

1. 様々な才能が集うきっかけとなったテレワーク実証進事業

大きな窓のあるテレワークスペースは、モニターも設置されている。
テレワークスペースの大きな窓からは、異国の風景のような雄大な牧草地を望む

平成26年度補正予算『ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業』に取り組むきっかけについて教えてください。

金澤(別海町):別海町は酪農、漁業、高い出生率など、豊かな資源を持つ一方で、人口減少という課題が大きくのしかかっているのも事実です。ITインフラの整備や町民のIT利活用の促進によって、新たな「人の流れ」を生み出し、人材交流を促進するとともに、自然資源とITビジネスの融合を軸とした「持続可能な地方創生モデル」を実現したいというのが、町としての想いでした。

実証事業では、IT大手のマイクロソフト社が実施団体に名を連ねていますね。

金澤:総務省のふるさとテレワーク推進事業には、北海道エリアのいくつかの自治体から手が挙がっていましたが、別海町ではマイクロソフト社と連携した「滞在型テレワークモデル」の検証や、起業人材育成などを軸に実証内容を詰め、推進事業に採択されました。参加にあたっては、町内においても運営団体(代表団体)が必要となったため、地元の有志の方を中心に一般社団法人Be-W.A.C.(ビーワック)を設立しました。
設立にあたり、東京から移住し、子育て支援ボランティアの団体を主宰していた山本瑞穂さんや、別海にUターンし生家のお寺を継いで住職になられた加藤泰和さんなど、「町のために何かしたい」というモチベーションのある方に手を挙げていただきました。

インタビューに応じていただいた別海町総務部総合政策課の金澤亮太さん
別海町 総務部総合政策課:金澤亮太さん

廣田さんも平成27年の立ち上げ当初から?

廣田(ほらり協議会):私はもともと外資系のIT企業に25年間勤務していました。実施団体の1つである株式会社ダンクソフトさんとつながりがあり、別海町のテレワーク事業を知りました。別海との出会いはそれが初めてでしたが、自分の持っているITの知識が取組の中で活かせるのではないかと思い、会社を辞めて実証事業の“被験者”として移住してきたんです。

インタビューに応じていただいた、ほらり協議会代表の廣田洋一さん
ほらり協議会 代表:廣田洋一さん

「別海町の外」を経験している様々な才能が、テレワークというきっかけで同時期に集まったのですね。

2. テレワークは実現可能。その先で実現していかなければならないもの

旧小中学校を活用しているため、校庭もさることながら、建物も大きい。
旧小中学校を活用した光進テレワークセンター。別海町の中心地から40㎞、広大な牧場地帯に囲まれた立地

本日お邪魔しているのはテレワークの中心施設「光進テレワークセンター」です。こちらは小中学校の校舎を活用されているんですね。

金澤:この校舎は平成20年に廃校となった小中学校です。テレワーク推進事業においては、既存施設の利活用も大きなテーマとなっていました。

廣島(オーレンス):我々オーレンスは地域企業様へのコンサルティングや税理士業務、IT環境の整備などを行っている会社です。テレワーク推進事業においては、この「光進テレワークセンター」と別海町の中心部に位置する「別海町マルチメディア館」の2拠点の整備を行いました。

インタビューに応じていただいた、株式会社オーレンス取締役、統括部長の廣島勝洋さん
株式会社オーレンス取締役 統括部長:廣島勝洋さん

街の中心部にある現代風の建物
光進テレワークセンターのほか、町の中心部にあるマルチメディア館(既存施設)内にもテレワークが可能なシェアオフィスが用意されている

実証事業の軸であったマイクロソフト社による「滞在型テレワーク」についてお聞かせください

金澤: 2〜3泊で光進テレワークセンターに滞在する形でお仕事をされる方が大部分でしたが、長い方ではご家族で3週間ほど滞在されるというケースもありました。
実際にテレワークをした感想は様々に寄せられましたが、基本的に「業務は問題なく可能」「テレビ会議環境も整い、ミーティングに不都合はない」といったポジティブな声が多かったと思います。
また、最近では道内の酪農学園大学による研究拠点としても活用されています。

牧草地に建つ白い建物は、旧教員住宅を改修した宿泊施設。
光進テレワークセンターには、旧教員住宅を改修した宿泊施設を整備。長期間のテレワーク滞在にも対応している

廣田:「テレワークが可能か」という視点だけで捉えるなら、IT系、特に開発や事務的な仕事であれば、それはもちろん「可能」なんですね。娯楽などは都市部と比較すると圧倒的に少ないですし、町と町との間に広大な牧場地帯が広がりますから車がないと移動できないという不便さはあります。
それでも、私個人としては、テレワークで都市部と同等の仕事をしながら、家族と生きていく上での問題はほとんどないと考えています。

3. 被験者としてやって来た別海町で、移住促進を本格始動させる

廣田さんは長年勤めた会社を辞めて、別海町に移住されたとか。ご自身のテレワーク体験についてはいかがでしたか?

廣田:移住と時を同じくしてゲンキッズという会社を立ち上げました。事業は主に2つで、1つは主に酪農におけるIT支援。もう1つが平成28年度に立ち上げた別海町移住定住促進協議会「ほらり協議会」の運営です。

キャンピングカーの横に立ち、ポーズをとる笑顔の廣田氏
3年前に別海町に移住してきた廣田氏。キャンピングカーに乗って北海道にやって来たのだそう!

まずは酪農のIT支援について伺えますか。

廣田:別海に東京の人が来てテレワークをすることは何の問題もありません。テレワークという文脈の中では、距離が関係なくなるんですね。ところが、テレワークを本当に必要としているのは北海道、まさにココで働いている人だと感じました。
例えば農家のコミュニケーションはまだまだFAXが中心。そこにメール文化を根付かせ、スマホで短時間にできるようにするのもテレワークなんです。最初はスマホのトレーニングから始め、最近では生乳の自主流通をITでサポートするような業務も行っています。

もう1つの、別海町移住定住促進協議会「ほらり協議会」は、テレワーク実証事業を受けての取組になりますか?

廣田:テレワーク実証事業を経て、マイクロソフト社などのIT企業によるテレワークが「可能である」という実績は得ましたが、やはり別海町としては「人口を増やしたい」「別海に住んでほしい」というのが本音なんです。
一方で、テレワークの本質が「どこでも仕事ができる」ことであるならば、「別海でなくてはならない明確な理由」が必要です。そこまで突き詰めて考えると、この地を選ぶ決め手は「別海での生活を愛しているか」でしかないですよね。
 
そう考えたとき、酪農という立派な主産業を持つこの町には、大きなポテンシャルがある。“若者人口を増やす”ことで町は単純に良くなるし、いかに移住者を増やすかに課題解決の糸口があると考えました。ふるさとテレワーク推進事業に参加することで、町として移住定住促進の方向性が改めて確認できたということだと思います。

4. 別海の魅力を外の視点で捉え、発信することの大切さ

テレワーク推進事業を通じて、「―人を増やす、移住者を増やす」というのが新たなテーマになったのですね。では、ほらり協議会の取組について詳しくお聞かせいただけますか。

ほらり協議会は「ひがし北海道への移住を支援する」パンフレットを製作している
ほらり協議会のパンフレット

廣田:テレワーク拠点である光進テレワークセンターとマルチメディア館の運営を引き続き行いながら、潜在的な移住ニーズに対する情報発信を行う「ほらりウェブサイト」の運営、また別海での生活を体験していただく「移住体験ツアー」などを行っています。

ほらりウェブサイトの一画面
ほらりウェブサイトには、U・Iターン者のインタビューやプロモーション動画などのコンテンツが豊富。別海を中心とした道東エリアがどんな場所なのかを、多角的に感じることができる

廣田:このウェブサイトのデザイン、実は漁師がやっているんですよ(笑)。テレワーク推進の一環で起業支援策があり、ウェブデザインの会社を立ち上げた人と一緒に作っているんです。
また、2年間かけて別海の四季をプロモーションビデオとして公開するプロジェクトも大きな成果だったと思います。こちらは東京の映像制作会社を迎え、あえて「外の視点」で別海の魅力を掘り起こすことを目指しました。

プロモーションビデオ「Go North」の一場面
「よそもの視点」をテーマに別海町の四季をまとめたというプロモーションビデオは、映画のようなクオリティ。動画ページはこちら

ドキュメンタリー映画のような映像美に引き込まれます! 本当に美しい四季が別海町にはあるんですね。

金澤:ここで生まれ育った私たちには「あたりまえ」になっている景色ですが、こうやって外の視点で切り取ってもらえると、「自分たちはこんなに美しい場所に住んでいたのか!」といううれしい驚きがありました。

廣田:このビデオには、町の人たちが本当に喜んでくれたんですよ。町の人にとってはあまりにも普通の風景ですが、僕らにとっては一瞬一瞬が感動だったりします。変化の少ない場所だからこそ、外の視点、つまり「多様性」が新たな価値を浮かび上がらせたり、化学反応を起こします。情報発信には、外の視点を上手に取り入れることが大切だと思います。

5. 地域おこし協力隊で3年。「変わった自分」はこの先も別海に居たいと思う

インタビューに応じていただいた、ほらり協議会の倉持龍太郎さん
ほらり協議会:倉持龍太郎さん

倉持さんは地域おこし協力隊として別海に来て、ほらり協議会のメンバーとしても活動されています。先ほどのプロモーションビデオにもクレジットされていますよね。

倉持(ほらり協議会):3年前に何の予備知識もないまま別海町に飛び込んで来て、本当にゼロからここでの生活を始めました。ほらりのウェブサイトでも移住者インタビューを受けているのですが、「嫌いな自分を変えたい!」とか言っています(笑)。

廣田:最初はものすごくスカした、嫌なヤツだったんですよ!(笑) でも、そういう意味では3年間でちゃんと変わったかな。

倉持:ありがとうございます(笑)。移住促進の担当としてほらり協議会の活動をサポートしていく中で、町の様々な人の話を間近で聞けたのは、大きな経験になりました。例えば牧場主の方々にお話を伺うわけですが、牧場主とは、つまり社長さんなんですね。
いきなり東京からやってきた頃のままの自分ではいけない。「自分の振る舞いを見直さないと!」と思いました。

ほらりウェブサイト内にある倉持氏のインタビュー記事の画面
移住間もない頃の「ほらりウェブサイト」でのインタビュー記事

自分の中で変化のターニングポイントになったのは何だと思いますか?

倉持:廣田さんに何度も叱ってもらったこともそうですけど(笑)、やはり最初は「自分は東京の人間だ」という変なプライドがあったんだと思います。ウェブサイトやプロモーションビデオの制作を通じてたくさんの町の人たちに出会う中で、そのプライドがなくなっていったのかな。

別海町としては、地域おこし協力隊をどのように町の活力にしていこうとお考えですか?

金澤:当初は「観光」という広い分野で活躍していただければと考えていましたが、テレワークに取り組む中で、移住への機運が高まってきました。倉持さんも協力隊の期限を迎えた後もそのまま残っていただけると聞いていますので、倉持さんのような方がこれからも増えてもらえれば本当にうれしいことですね。

6. カフェもオープン! 移住者と町の人が出会う場所を作る

最後に、今後の移住促進の取組について教えてください。

廣田:簡単に言ってしまうと、「別海に酪農をやってくれる人を呼びたい」ということなんです。紹介したほらり協議会の活動目標はそこにありますし、「町と外の力を結びつける」というのが我々の役目だと思っています。
 
直近の動きでは、プロモーションビデオプロジェクトの第2弾として、別海町の産業に焦点を当てたビデオの公開に向けた活動が始まっています。
 
また、テレワークや移住で町に来た人が「町の人と出会う場所」がどうしても必要だと考えていて、来年春にはカフェをオープンする計画です。

廣島:地域産業の支援という意味でも、国内、海外を問わず若い方に来ていただく取組は続けています。海外の方が日本の文化に触れ、文化を学ぶための学校なども検討しているところです。

廣田:ビジネス的に見ると別海町の酪農は安定しており、町には「現状維持」つまり「変えたくない」という意識が根強いのもわかっているつもりです。しかし、このまま何もしなければ子ども世代、孫世代にジワジワと状況は悪くなっているでしょう。
「移住」とは、そう簡単に実るものではありませんが、外から来る人が活動しやすい基盤づくりを通じて、別海町を元気にしていければと思います。

本日はありがとうございました。

お問合せ先

ほらり協議会:http://horari.jp/
別海町:https://betsukai.jp/ 0153-75-2111

(参考)平成26年度補正予算地域実証事業の取組内容はこちら(PDFファイル)