高知県土佐町

【取材日:平成30年2月5日】

四国の真ん中、高知県嶺北(れいほく)地域が目指す新しい働き方

四国山地に囲まれ、吉野川が流れる緑の多い嶺北地域。
▲夏の嶺北(大豊町、土佐町、本山町、大川村の4町村)中心部

人口400人、離島や東日本大震災の被災地を除けば国内最小の大川村、そして全国で初めて65歳以上の高齢者人口が半数を超し、「元祖限界自治体」と呼ばれる大豊町。人口減少と高齢化が進む未来の日本を先取りしたような2町村に、土佐、本山の両町を加えた高知県嶺北地方の4町村が、総務省の「平成28年度ふるさとテレワーク推進事業」に採択されて以来、テレワークを活用した移住者獲得に力を入れています。土佐町のシェアオフィス相川に進出した株式会社リブリッジの石松明彦社長、萬羽憲史氏、大川村むらづくり推進課の長瀬憲章主幹、高知県移住促進・人材確保センターの吉井裕之氏に話を伺いました。

目次

1. 都会の若者が関心を寄せる過疎の山村の魅力

2. 嶺北進出で念願の人材確保に成功、田舎暮らしにも満足

3. 現地雇用の拡大と第2の拠点探しが今後の目標

4. 地域の隠れた魅力を発信、自治体側も熱い期待

5. 本事例についてのお問合せ先

1. 都会の若者が関心を寄せる過疎の山村の魅力

インタビューに応じていただいた株式会社リブリッジの萬羽氏、石松社長、高知県移住促進・人材確保センターの吉井氏、大川村むらづくり推進課の長瀬氏
▲左から株式会社リブリッジの萬羽氏、石松社長、高知県移住促進・人材確保センターの吉井氏、大川村むらづくり推進課の長瀬氏

―平成28年度ふるさとテレワーク推進事業に参加したきっかけは?

吉井氏:高知県は急激な人口減少と高齢化が続いています。全人口に占める65歳以上の割合を示す高齢化率は全国の高齢化率を15年先取りしており、さらに若者の県外流出も進み、県内事業者の大半が後継者不足に陥っています。地域の未来に強い危機感を感じ、県は最重要施策の一つとして「人材確保」を掲げ、3年前に高知県移住促進・人材確保センターが設立されました。しかし、社会増減0、移住1000組の実現には、県内事業者の採用キャパでは限度があり、雇用創出の新たな施策としてテレワークの利用を考えたのです。候補地には移住者の受入れに成功していることと情報発信のインパクトの強さ等の理由から、大川村を中心とした嶺北4町村を選定し、テレワークのインフラ整備を官民一体となり推進しました。

早明浦ダムは「四国のいのち」とも呼ばれ、非常に重要な役割を担っている。
▲土佐町と本山町の2町にまたがる四国で一番大きな早明浦(さめうら)ダム

―嶺北地方は人口最小の村とか限界自治体の先駆けといったネガティブなイメージがあるとはいえ、一方では都会の若い世代の注目を集めているそうですね。

長瀬氏:実は都会の子育て世代の移住が相次いでいます。働く場所を選ばないクリエイティブな仕事をしている人が多いのです。有名なブロガーも移住してきました。温暖な気候と暮らしやすい環境が口コミで広がったようで、2015年の国勢調査では本山町、土佐町、大川村で15歳未満の年少人口の割合が増えています。人口減少に歯止めがかかったわけではありませんが、転出者を転入者が上回る人口の社会増を達成したこともあります。ただ、大川村に限っていえば、移住者を呼び込むのに十分な情報発信ができていませんでした。本格的な情報発信を続け、若い世代にどんどん来てほしいと思っています。

2. 嶺北進出で念願の人材確保に成功、田舎暮らしにも満足

廃校の小学校を再利用したシェアオフィス相川の外観。屋根は明るい色になっている。
▲廃校の小学校を再利用したシェアオフィス相川

―リブリッジは土佐町の相川地区に設けられた「シェアオフィス相川」に進出しています。どんな施設でしょうか。

吉井氏:もともと小学校として建設された3階建ての建物で、小学校の統廃合で廃校になりました。1階が地域とのコミュニティエリアとして利用され、グラウンドも含めて地域のイベントなどに活用されてきました。2階と3階が会議室やオフィススペースとして活用されています。もちろん高速インターネット回線が通じていますから、IT企業がサテライトオフィスを置くにはもってこいです。リブリッジはシェアオフィス相川に入居した4社目になります。

―リブリッジが嶺北へ来ようと決めたのはなぜですか。

石松氏:弊社は2014年の設立で、東京都千代田区に本社を置き、人材サービス、求人情報サイトの運営などを手がけています。しかし、人材の確保などいろいろと悩みを抱えていたのです。そんなときにお話をいただき、暮らしやすい環境の嶺北が気に入りました。自治体側が人材確保や雇用課題の解決に前向きな点も評価しました。弊社では、本社とサテライトオフィスを常時、大画面のSkype(スカイプ)でつなぎ、朝から勤務状況を共有しています。インターネット回線が通じていれば必ずしも社内にいなくても、できる仕事がたくさんあります。そうした仕事を土佐町で分業対応しています。進出したおかげで優秀な人材を確保でき、喜んでいるところです。

―萬羽さんは東京で事業をしていたそうですが、リブリッジに採用された後に嶺北へ移り住んだ印象はどうですか。

萬羽氏:嶺北ではウェブや動画の制作をしています。最初は、住まいを高知市内に置いていました。高知市だと子育て環境は東京とそれほど差がない印象です。しかし、嶺北は自然が豊かで子育て環境がさらにいいと感じました。高知県だと南海地震の発生が心配されていますが、内陸の中山間地では津波の不安がありません。その点も考慮し、こちらでお世話になることにしました。都会とは違う住民関係の濃密さは田舎ならではのことでしょうが、私は東京の下町育ちです。人間関係は下町と変わらないという印象を持ち、すんなり入ることができました。また、公共インフラも整っていて住みやすい地域です。

3. 現地雇用の拡大と第2の拠点探しが今後の目標

廊下には小学校であったことを感じさせる。
▲高速インターネット回線を完備。しっかり磨かれた廊下を見ても、管理が隅々まで行き届いていることがわかる

―リブリッジとしては嶺北でこれまでにどんな活動をしてきましたか。

石松氏:萬羽から説明があった通り、土佐町でウェブや動画の制作をしています。東京ではこういう仕事を任せられる優秀な人材の確保が人手不足で難しくなっていますが、人材確保をできたのが成果の1つです。今は常駐の萬羽のほか、UIターン雇用の社員2人、本社から出張する社員らを加えた5~6人体制で仕事を進めています。さらに現地雇用も進めるなどして技術、クリエイティブの両面で仕事の質を高めていくのが当面の目標です。そして、嶺北の良さや知られていない魅力を情報発信し、移住者を募る手助けをしたいと考えています。先日、東京で催された地方創生のイベントに出展した際も、大川村をはじめ嶺北は好評でしたから、しっかり成果を出していきたいです。

―今後の目標としてはどんなことを考えていますか。

石松氏:土佐町のオフィスはもう少し人員を増やし、7~8人体制にしたいと考えています。それと同時に、別拠点を1カ所、高知県内に設けることを検討中です。萬羽のような有能な人材と出会えるよう、新たな機会を創っていきたいです。
出張でこちらへ来ると、都会の喧騒の中にいるのと違い、気分をリフレッシュできて仕事に集中できます。まだ足を運んでいない社員の、本社からの派遣や出張も積極的に進めていきたいですね。課題もないわけではありませんが、「案ずるより産むが易し」というように、実際にこちらへ飛び込んでくると自然に解決することもあります。だから、何事にも思い切って挑戦していきたいです。これからは地元とのつながりをもっと深めていこうとも考えています。

4. 地域の隠れた魅力を発信、自治体側も熱い期待

澄んだ水の吉野川。「四国三郎」という異名を持つ。
▲大豊町を流れる吉野川。夏はラフティングが楽しめる

―自治体側としてはリブリッジの活動をどう受け止めていますか。

長瀬氏:ハローワークなどで求職者を探す際、地元の細かい部分はどうしても伝えきれません。リブリッジはそうした表に出ていない地元の良さを情報発信してくれています。今から10年、20年前の嶺北地方は、人口減少と高齢化で地域に元気がありませんでした。最近は少数ですが、若い移住者が集まってきて「大川村さくら祭り」など移住者が関係したイベントも増えてきました。地域おこしのカギは外部の目とよくいわれますが、嶺北により多くの人が外から集まるきっかけをリブリッジが作ってくれると期待しています。移住者は地元住民のいい刺激になります。

吉井氏:高知県内で人口減少と高齢化に苦しんでいる場所は、嶺北だけでありません。室戸岬周辺の県東部、足摺岬周辺、四万十川流域の県西部も、嶺北と同じ悩みを抱え、苦悩しています。高速インターネット回線が県内一円に整備されているわけではありませんから、地域によってはテレワークの推進に困難が伴う場所もあります。しかし、嶺北の活動が軌道に乗り、都会の若者を引き寄せていけば、他の地域にも元気が伝播していくのではないかと期待しています。これからいっしょに高知県を盛り上げてくれる人材をどんどん集めたいですね。

お問合せ先
大川村役場 電話 0887-84-2211

相川コミュニティセンターの利用方法とテレワーク設備について
詳しくはこちら 別ウィンドウで開きます

(参考)平成28年度予算補助事業の取組内容はこちら