岩手県大船渡市

総務省が平成27年度に実施した「ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業」において、NTTコミュニケーションズ株式会社が大船渡市などとコンソーシアムを組んだ「都市部企業のニアショア開発センターと自営型ノマドワーカー(移住者)の地域交流による多様な分野・世代が学び・働ける『大船渡市・地域人材育成拠点』整備事業」(以下「ふるさとテレワーク地域実証事業」という。)が採択先となりました。この事業では「大船渡ふるさとテレワークセンター」(「ふるさとテレワーク地域実証事業」終了後に名称を変更。以下「大船渡テレワークセンター」という。)を構築し、都市部企業やフリーランスなどのIT技術者がテレワークを実践する実証を行いました。
今回は、コンソーシアム構成員として事業に参加した株式会社地域活性化総合研究所の福山宏氏に、参加のきっかけやこれまでの成果、今後の構想についてお話を伺いました(掲載内容は取材当時平成29年1月中旬時点のもの)。
福山氏は東日本大震災直後から大船渡市に移住し、防災情報などを伝達する研究等を行い、平成24年8月には、「防災メディア」 と 「市民メディア」 の融合への取組を目的に立ち上げた「NPO法人 防災・市民メディア推進協議会」の設立メンバーとなりました。また、平成26年9月からは株式会社地域活性化総合研究所に所属し、大船渡市の人口減少問題に取り組んでいます。

―――福山さんは「NPO法人 防災・市民メディア推進協議会」のメンバーとして、平成26年、高校生や保護者向けにアンケートを実施されたそうですね。

平成25年当時、大船渡市とNPO法人 防災・市民メディア推進協議会では、大船渡市の人口減少の大きな要因は、高校卒業時に約9割の若者が市外に進学や就職で転出してしまうことであると考えていました。

そこで、ICTを活用した遠隔学習環境や遠隔就労環境を整えてはどうかという仮説を立て、事業化検討のために平成25年度復興庁の企業連携プロジェクト支援事業に応募し、「ICTを活用した遠隔ビジネス大学校とオフィスの開設事業」が採択されました。その事業化検討の一環で実際の高校生や保護者のニーズを把握しようということになり、平成26年1月に大船渡市、陸前高田市、住田町の高校1年生から2年生の生徒と保護者の全数アンケート調査を実施しました。

このアンケートの中でなりたいと思っているキャリアに対する質問があり、「地元で学べて遠隔でも働ける環境があれば(地元に)残りたいですか?」と尋ねたところ、72%の高校生が「それがあるなら残りたい」と回答し、保護者は80%が「残したい」と答えたのです。それまで「地元から出ていくつもりですか?」という質問に約85%の高校生が「出ていく」と回答し、90%の保護者が「出したい」と答えていたにも関わらずです。

正直なところ、もっと田舎が嫌で都会に出ていく人が多いのかと思っていたんですね。ところがそういった人は2割程度で、大学・専門学校などの「学べる場」と自分が希望する「働きたい仕事」があれば、約8割が「地元に残りたい」と思っていました。しかし、現実には学べる場がないため、学びたいと思ったら大船渡を出ていくしかない。また、働くとしても職種が限られているので結果として大船渡を出ていくという選択肢しかない状況にありました。

環境整備ができれば、残ってもいい、残りたいと意識が変化することが分かり、遠隔で学べる環境作りの検討を開始しました。これが「スマートキャリアカレッジ構想」です。

―――平成27年度にふるさとテレワーク地域実証事業に参加したきっかけを教えてください。

地域の中で学べる環境と働ける環境を作っていかなければならないという問題意識がふるさとテレワーク地域実証事業への参加のきっかけでした。「スマートキャリアカレッジ構想」で遠隔で学べる環境を「大学校」として整備しようとして高校を回って意見を聴いていた頃、高校の先生から「どんなに学べる環境を作っても、その先に働ける環境がなかったら、親は学べる環境には行かせないし、本人も行かないよ」と言われたんです。では、働ける環境作りについて考えなければならないと思っていたところに、ふるさとテレワークの話をいただきまして、代表機関であるNTTコミュニケーションズ様と協力し応募することになりました。

―――ふるさとテレワーク地域実証事業はどのように進められたのでしょうか?

大船渡テレワークセンター内は明るく、仕事をするには良い環境。
(上)大船渡テレワークセンター内の様子

津波で被災した集合住宅の1階部分を「大船渡テレワークセンター」として改修を進め、テレワークに必要な環境を整備。そこに富士ソフト株式会社様がサテライトオフィスを開設しました。本社から2名の社員が大船渡に移住し、現地で新規採用する社員の育成と就労を実施しようとしましたが、実際には大船渡で現地社員の募集をかけてもなかなか人が集まりませんでした。知り合いの伝手を頼って声をかけても「自分にプログラムなんて無理」とスキルに線引きをしている人が多かったんです。相手にその気がないのに、「この方向に」と示唆しても誰もついてきてくれません。地域実証事業を進めるためには、まず地元との交流を促進する必要があるということを感じていました。

―――最初はふるさとテレワークの取組がうまく稼働しなかった部分もあったようですね。軌道に乗り始めたのは何がきっかけでしょうか?

ふるさとテレワーク地域実証事業では、富士ソフト様が大船渡にサテライトオフィスを開設するだけではなく、全国各地にシェアハウスを展開し、趣味や話題が合うフリーのIT技術者(ギーク)が集まり共同生活する「ギークハウスプロジェクト」の実証も行っていましたが、この「ギークハウスプロジェクト」の協力が大きな契機になりました。フリーランスの人に対し、東京と大船渡市の2拠点居住を促進、地元の人と交流する機会を多く持ってもらいました。その中で、地元からもそういった働き方に興味を持つ人が出てくるようになり、例えば猟師さんが必要とする技術を一緒に開発するという取組などにつながり、少しずつITを仕事にする種が芽生え始めたように思います。

―――「大船渡テレワークセンター」にはサテライトオフィスだけでなく、コワーキングスペースを併設されましたが、最初は地元の人が使ってくれなかったそうですね。

最初は地元の人の利用が少なく、せいぜいギークの人たちが来てくれるくらいでした。こちらとしては地元の人たちにも使ってもらいたいと思っていたわけです。都市部からの移動者はもちろんですが、もともとは地域の人材育成のためにも使いたいと思っていたので、そこにうまく結び付けたいという気持ちがありました。教材や学べる環境も作ったんですが「学べる環境だけ作っても人は来ない」ということが分かったんです。

そこで、ふるさとテレワーク地域実証事業の終了後、実証での反省を踏まえ、もっと地元の人の利用を増やす方法を検討し、「学びたい環境を作ろう」と方針を変えて、在宅テレワークの斡旋事業を始めました。

―――すぐに仕事を斡旋できるわけではないので育成から開始されたわけですね。

東京で人工知能をやっている会社がありまして、人工知能の学習オペレーションを解析センターのような形で作りたいという話を大船渡市に誘致しました。大船渡テレワークセンター内のコワーキングスペースを活用し、子育て中や介護が必要な家族がいる女性などを集めて、自宅でも仕事ができるように育成をはじめたところ、かなり多くの女性が集まるようになったんです。25名くらい来た中で、15名くらいはすぐに着手できたのですが、残りの10名はパソコンの電源を入れるところからのスタートでした。その方たちは育成プログラムのほうで勉強してもらって、ある程度のレベルまで達したら仕事に従事できるという2段構えで進めました。2軍で鍛えてから試合に出す、みたいな感じで(笑)。現在も15名くらいは実際に仕事を続けています。

セミナーには多くの人が集まっている。
(上)大船渡テレワークセンター内のコワーキングスペースで実施されたセミナーの様子

―――働きたくてもフルタイムで働くことのできない女性の仕事を生むことにつながっていますね。

今は、保育園の空きがなかったり、介護を必要とする家族がいたり、フルタイムで働くことのできない人が増えています。人工知能の仕事は、この文章はこちらの意味、その文章はそちらの意味というように、意味の紐づけを分類するような内容ですので、仕事のスキルとしてはそれほど高いわけではありません。報酬も何千円程度というレベルです。ですが、この作業を通してITスキルも上がっていくので、子育てがひと段落してまた仕事を始めようとしたときにIT関連の仕事を選ぶ可能性も出てきます。

コワーキングスペースの壁には花火が描かれている。
(上)コワーキングスペースを活用して仕事をする女性

―――加えて、お母さんがパソコンで仕事をしている姿を見ている子どもたちは、働くことに対する認識やイメージも変わってきますね。

そうなんです。そこは今うまく展開できているかなと思っています。長期的に考えると子どもたちの考え方を変えていくには、お母さんが変わっていくことにも意味があると思っています。

子育てと仕事の両立がしやすい環境。
(上)子連れでコワーキングスペースを訪れる女性も

―――ふるさとテレワーク地域実証事業が大船渡で行われたことで、地元の方や企業などがどういった面で変化したか教えてください。

実証の結果として、地域の中に「大船渡テレワークセンター」というプラットホームができたのは大きいですね。全くゼロのところから「人工知能の解析センターを作ります」「猟師さんのための鹿対策技術を開発します」といっても、皆さん「何を言ってるんだ?」という感じだったと思うんです。ベースになるテレワークセンターができて、そこに富士ソフトさんのサテライトオフィスができて、ぼんやりとでも地域の中にプラットホームがあるという感覚を植え付けられたと思っています。

そこから、自治体のホームページを作り直そうかとか、子育て中のお母さんのための施策をやろうかとか、形になるものを作りやすくなりましたね。土台がなければ、場所探しから始めなければなりません。そういった施策は気軽に展開できないものですが、大船渡テレワークセンターがあるからできることが増えたのではないかと思っています。

―――プラットホームができたことによる広がりは大きなものになっているようですね。

はい。ふるさとテレワーク地域実証事業の際に整備した大船渡テレワークセンターですが、平成29年にはプラスで3部屋拡張する予定です。加えて、地元ベンチャーとの勉強会なども行い、協業モデルなどを作り始めているところです。
また、ギークの方たちと地元住民の方との交流も今も続けています。テレワーカーと遠洋漁業の漁師さんや水産加工に従事している人との交流を通して、付加価値としていろんなものを生まれさせていきたいです。このように、ふるさとテレワークの成果としては地域のプラットホームができた、という側面が一番大きいのではないでしょうか。

コワーキングスペースではイベントも開催可能。
(上)コワーキングスペースでのクリスマス会の様子

―――最後に、大船渡テレワークセンターを活用した今後の展開について教えてください。

産休が短いなど、地元で働く女性の福利厚生はあまりいいとはいえません。そこで、会社に通勤しないで、子どもと一緒に働ける拠点としても、ここの整備ができないかということを考えているところです。現在、地元の経営者の方たちと意見交換をしている段階で、子どもと一緒に働ける拠点に対してどういう仕事であれば出せるのかという議論を始めたところです。

子育て中のお母さんたちが、在宅テレワークでやっている仕事も、家で子どもの世話を見ながら行うというのは限界があるので、「子連れで仕事ができる拠点」を考えたいと思っています。

また、東京にアンテナショップを出すことが決まっています。テレワークを含めたUIJターンの促進と特産品の販売促進を進めて、業務誘致のようなこともやっていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(参考) 登録自治体情報:岩手県大船渡市