長崎県南島原市

【取材日時:平成30年2月23日】

情報技術と農業生産の融合が、新しい可能性を生み出す

リゾートオフィスは廃校となった小学校の建物を利用している。
長崎県南島原市の旧山口小学校は、平成26年に廃校となった後も地域の方々の交流の場所、そしてテレワークで事業を行う『リゾートオフィス』として利用されています。単に仕事のできる環境を整備したというだけではなく、IoT技術を活用して新しいビジネスを生み出す出発点に。そんな可能性に満ちた取組みを行っている株式会社セラクの担当者と、その活動を柔軟にバックアップしている南島原市商工観光課の小関克稔氏にお話を伺いました。

目次

1. 自然に囲まれたのどかな環境で、いつもの仕事に励む

2. 地域で大切にされてきた小学校をリユース、事業の拠点に

3. 農地環境の“見える化“が、生産の発展につながっていく

4. IT事業における「実際の拠点がある」という強み

5. IoT分野を軸に企業と行政が臨機応変に協力し合っていく

6. 南島原市を起点に、IoT分野の発展と普及に努める

7. 本事例についてのお問合せ先

1. 自然に囲まれたのどかな環境で、いつもの仕事に励む

大画面モニターが設置されるスペースは木目調で落ち着いた雰囲気である。
▲本社とテレビ会議が行えるよう、ミーティングをするスペースには大画面モニターを設置した

―株式会社セラクは、東京・新宿に本社を構えるIT企業とのことですが、南島原市の旧校舎をどうお使いになっているか教えてください。

担当者:まず1つは、リゾートオフィスとして利用しています。当社には約1,500名のIT技術者がいるのですが、担当業務によってはPCの前にずっと座っていることもあります。プロジェクトのフェーズの切れ目など、比較的繁忙でない時分に仕事を続けながらリフレッシュできる場所があれば、心身をいい状態に保ちつつ長期的に活躍できるのでは、と考えていました。そういったことから、本社と離れた場所にリゾートオフィスを開設しました。
場所は違っても、仕事の内容は東京の本社にいるときと、ほとんど変わりません。業務で使用するツールの多くはクラウドですしVPNを利用して本社のサーバーと接続しています。IP電話で東京にかかってきた電話も長崎に取り次げるようにしています。会議もオンラインミーティングで行えるので、気を付けていることといえば来客の予定を入れないことくらいです。仕事は同じでも、自然に囲まれた場所に身を置くのは、気分的にも都会と違う部分があります。
そしてもう1つが、農業ITサービスの研究開発拠点としての活用です。当社が事業展開する農業IoTサービスの「みどりクラウド」は、IoTで計測したデータを農業の生産量や品質の向上に生かす圃場(ほじょう)モニタリングシステムです。これを栽培の現場で用いることで利用者の使いやすさやニーズを把握し、早急にシステムの改善等に役立てることができます。実際に地元農家の方々と実証実験や共同研究を行っています。南島原地域はトマトやイチゴの生産が盛んなため、機器をビニールハウスに設置して温度や湿度、日射量、土壌水分などを管理、そのデータを逐一確認できるようにしています。

2. 地域で大切にされてきた小学校をリユース、事業の拠点に

廊下はノスタルジックな小学校の雰囲気を残している。
▲静まりかえった校舎にいると、まるでタイムスリップしたかのような気分に

―そもそもなぜ南島原に株式会社セラクがオフィスを構えることになったんでしょう。

小関氏:全国の他の自治体と同様、人口減少は南島原市でも問題となっていました。そこで企業誘致に力を注ぎました。それも大規模な工場などではなく“一人の技術者が楽しく業務できる環境”を重視しました。それがもう7年以上前のことになります。当時からセラクさんと南島原市でさまざまなプロジェクトの検討をしていました。山口小学校の廃校を機にサテライトオフィスの候補地ができたことで、オフィス開設に向けて勢いがつきました。
もともと旧山口小学校は地域活動で盛んに利用されていました。サテライトオフィスの活用について地域の方々に集まってもらい説明会を開いたところ、最初からすごい歓迎ムードで。もっと校舎を活用してほしいという気持ちが皆さんの中にあったんだと思います。さらに地元のトマト農家さんと共同で実証実験をすることも決まって、その農家さんのオフィスも校長室に設けています。

3. 農地環境の“見える化”が、生産の発展につながっていく

農業をITとつなぐためのセンサーボックス。
▲センサーボックスはとてもコンパクト。設置も簡単で、さまざまな農地で活用できます

―株式会社セラクが取り組んでいる農業IT事業について、もう少し詳しく教えてもらえますか?

担当者:当社が開発した「みどりクラウド」は、農地の環境を計測・記録してそのデータを離れた場所から確認できるモニタリングシステムで、南島原市ではトマトやイチゴのビニールハウスに導入しています。計測するのは温度や湿度、日射量、土壌水分などさまざま。現場をカメラで定点観測撮影することも可能です。みどりクラウドを利用することによって、例えば夜間の急な温度変化や電気機器のトラブルで農作物の生育に影響が出てしまうといった不測の事態の発生を防いだり、病害虫の予測や、栽培環境がどのように生育に影響するのか等を察知したりできます。現に南島原市のあるイチゴ農家さんでは、みどりクラウドを使って地表からの高さごとに温度や日射量を細かく管理し、イチゴの品質を高められているそうです。
農業は長年の勘や経験が重視される傾向があり、どうしても成功した事例を誰かに伝えたり、残したりするのは難しい現状があります。そこで大切になってくるのがデータの蓄積です。「みどりクラウド」なら詳細にデータを記録できるので、成功例を次につなげやすくなります。こうした情報技術の活用は農業以外の分野でも注目され、今後ますます発展していくことが期待されています。

4. IT事業における「実際の拠点がある」という強み

木目調の雰囲気で統一されたオフィス。元教室の雰囲気にうまく溶け込んでいる。
▲教室をオフィスにリノベーション。常駐スタッフは南島原市の出身

―都会から離れ、南島原という土地にリゾートオフィスを構えてみて、どういった利点があったかを教えてください。

担当者:東京では味わえない地方ならではの自然とおいしいものに癒されていますし、業務の生産性の向上も見込めます。そして何よりも、「実際の拠点」を持つことで、地の利や地形を生かした事業展開が可能となります。
以前、山の上の校舎から麓まで長距離データ伝送を行うという、次世代通信の実証実験をしたこともありました。山間地域の通信環境は発展途上で、今後の農業IT分野には通信インフラの整備が欠かせません。そういった意味で実地的なデータを集められたのは成果となりました。やはり農地環境が身近にないままソフトの研究をしていくのでは、農業の未来に役立つサービスにすることが難しいと思います。机上ではなく実際の場所で、地元の農家の方々と共同研究することで得られる知見が、ビジネスのさらなる成長につながると考えています。

小関氏:それに実際の拠点があることで、地元に安心感も生まれるんですよ。セラクさんのオフィスには常駐するスタッフもいるので、地域のお祭りにも積極的に参加してもらっています。そうした人と人とのアナログなつながりも大切にしていきたいですね。実際に南島原市で事業を行ってくださる企業であれば、こちらとしても連携のとれた活動がしやすくなります。

5. IoT分野を軸に企業と行政が臨機応変に協力し合っていく

和やかに仕事が進む。
▲フットワークの軽い南島原市の小関さん。株式会社セラクの担当者とも柔軟に連携を取っています

―株式会社セラクと南島原市で、共同で行っている活動はどういったものがありますか?

小関氏:平成30年1月に、南島原市とセラクさんを含む複数の企業やNPO団体と「IoT推進コンソーシアム」を設立しました。共同で研究や技術協力はもちろん、さまざまな分野での活動を予定しております。例えばIoT分野では、人材育成や技術者交流、普及を目的とした合宿を行い、若い学生たちにもIoTを身近なものとして関心をもってもらう機会になればと期待しています。こういった活動を自治体だけで運営するとなると、どうしても臨機応変に対応することが難しくなります。

担当者:逆に当社だけで行っても、地元の理解を得られないでしょうね。企業として行政に期待することの中に、地域のコミュニティや団体等との橋渡しがあると考えています。南島原市さんには、その部分で非常に細かく当社に対応していただいています。
IoT分野はそもそもの普及に加えて、サービスの開発、技術者の集約など、とにかくやることが多いんです。その多分野にわたる活動を、コンソーシアムとして動くことでお互いの連携を取りながらスピーディに進められていることを実感しています。

6. 南島原市を起点に、IoT分野の発展と普及に努める

インタビューに応じていただいた南島原市の小関さんと株式会社セラクの担当者さん。
▲可能性に満ちたIoT分野を、ワクワクしながら進んでいく小関氏(左)と株式会社セラクの担当者(右)

―旧山口小学校での活動を通して、これからどういった成果を残していきたいとお考えですか?

小関氏:まずは活動そのものを知ってもらうことが大切です。長崎県内に情報系の学校はあっても地元に就職先がなく、都会に出る学生も少なくありません。南島原市がIoT分野で発展することにより、そうした人たちの受け皿になれたらと思い、広くプロモーションしていきたいと思います。こういった取組みにはぜひセラクさんにも加わっていただき、テレワークで実現する働き方が都会に出た人たちの長崎に帰ってくる選択肢にもなれたらと。そういうUターンの新しい事例を、南島原市から生み出したいです。

担当者:IT業界全体が人材不足で、しかも人材の東京一極集中という課題も抱えています。地方出身者のライフスタイルに合わせた活躍の場を作ると同時に、働き手が心身のワークライフバランスを維持しつつ長期的な活躍をどう実現していくか、といった問題にも取り組んでいければと考えています。
また、この場所でオフィスを開設した当時からのテーマが「南島原市を農業IoTのメッカにする」というものでした。IoT分野はまだまだ新しい領域ですが、農業のような一次産業にこそ大きな革新をもたらせると考えています。その普及や活動の拡大には、行政とタッグを組むことでより可能性が広がると信じています。

お問合せ先
株式会社セラク 別ウィンドウで開きます 電話03-3227-2321

赤い屋根のふるさと交流館ホームページ 別ウィンドウで開きます

(参考)平成28年度予算補助事業の取組内容はこちら