福岡県糸島市

【取材日時:平成30年1月31日】

場所と時間にとらわれない“糸島スタイル”で輝くママたち

集中して仕事に取り組むことができる環境。
観光地として、また移住先としても注目を集めている糸島市で、地元のママたちに向けたテレワークや自宅起業を支援する働き方の提案が行われています。その発信元となっているのは「前原テレワークセンター(別名:ママトコワーキングスペース、愛称:ママトコ)」。同施設は糸島市と産官学の連携によるコンソーシアムによって「筑前前原駅」の近くに開設され、平成28年からママライター育成事業を実施しています。コンソーシアムの代表でママトコの運営を行う一般社団法人日本テレワーク協会の中本英樹氏、そしてママトコワーキングスペースを切り盛りするコンソーシアムメンバーの糸島女性支援プロジェクト事務局長の佐藤倫子氏、「ママトコ部」部長の尾崎恭子氏にお話を伺いました。

目次

1. 集中して仕事ができる場所を地元に

2. 糸島に移住したママがテレワークで力を発揮できる可能性

3. ここで成長後、グループとなって自立していくママライターたち

4. 糸島市から福岡市への通勤者も利用できるサテライトオフィスに

5. 本事例についてのお問合せ先

1. 集中して仕事ができる場所を地元に

「ママトコ」ロゴマーク

―はじめにこちらの施設「ママトコ」について概要や特徴などをお聞かせいただけますか?

中本氏:ここは福岡へのアクセスも良い筑前前原駅に近く、周りに糸島市の市役所や郵便局もあって利便性に富んだ場所です。施設には5人を収容できる企業向けのサテライトオフィスと、フリーランスで働く方々の利用できる8人を収容できるテレワークセンターを備えています。そしてサテライトオフィスの勤務者、フリーランスの方のどちらも利用できる「共用スペース」と呼ぶ場所では、授乳ができる一角や子供が遊べるよう畳を敷いたコーナーを設け、ここで仕事をしながら食事や、子供に目を配ることができます。セミナーもこの共用スペースを使って開催しています。

佐藤氏:糸島女性支援プロジェクトは「女性の意見を暮らしのあらゆる場に」をテーマに以前から活動を行っていた任意団体です。施設の開設に当たっては新たに団体内へ「ママトコ部」を設け、運営に務めています。

―どのような方を施設の利用対象に想定していますか?

佐藤氏:サテライトオフィスは都市部のオフィスに通う企業人や市域内の企業社員です。テレワークセンターは、移住者や地元の方や男女を問わず、働く地域住民全ての方々を対象にしています。特に自宅で作業している方で、プライベートと仕事の区別がつかず困っているような場合には、テレワークセンターを「区切る場所」としてご利用いただきたいですね。お子さんとご一緒の利用も歓迎です。

2. 糸島に移住したママがテレワークで力を発揮できる可能性

青々とした玄界灘とその先には芥屋の大門(けやのおおと)

―ふるさとテレワーク推進事業をここ糸島で展開していった経緯などをお聞かせください。

中本氏:総務省の平成26年度補正予算ふるさとテレワーク推進のための地域実証事業からスタートしました。平成27年には糸島を代表する景勝地に近い芥屋(けや)に「移住のため」、翌年の平成28年には前原に「住民のため」と位置付けた2つのテレワークセンターを設置しました。
前原のセンターを開設した当初は設備が整わず、コンソーシアムメンバーが什器等を持ち寄りました。平成28年度ふるさとテレワーク補助事業で、パーティション等のオフィス什器をそろえ、ようやく拠点整備ができました。

個人向けスペースも完備し、利用しやすい環境。

―テレワークという観点において糸島という場所はどんな可能性があると思いますか?

佐藤氏:糸島はまず移住が進んでいる地域であり、また働く女性の率においては福岡県内で最も高い市と聞いています。そんな糸島に移住されて来た子育て期の女性は、仕事の経験やスキルを持ちながらも、力を発揮する場所が少ないとも感じています。そうした意味から、テレワークを通じて働きたい女性たちに提供できることがあるのではと考えています。

3. ここで成長後、グループとなって自立していくママライターたち

「ママトコ」では女性も活躍し、女性にも優しい施設となっている。
▲左から、運営を直接担当する「ママトコ部」部長尾崎恭子氏、佐藤倫子氏、そして元気な赤ちゃんを連れ取材に応じてくださったママライターの中村由佳氏

―「ママトコ」ではどのような活動実績や成果がありましたか?

中本氏:特徴ある活動としては、女性テレワーカーの育成や支援を目的としたセミナーなどを多数開催し、同時に地元企業向けのセミナーも行ってきました。

佐藤氏:昨年2月から3月にかけて行った連続講座「テレワークスキルアップ講座」ではNPO法人ママワーク研究所やNPO法人チルドリン徳島から講師をお迎えし、テレワークツールの使い方取得など参加者の能力の向上を目指しました。また、昨年9月から12月にかけて行った全7回のプログラムの「ママライター育成講座」では、定員8名のところ23名が応募するほど希望者が多かったのですが、そのうち10名を選び受講していただくことになりました。この講座は私が市の総合戦略の委員をしていたときに提案したものが原案になります。こういった講座の開設と同時に、糸島市役所からライティングの依頼を受注できるような仕組みも作ってきました。

尾崎氏:講座を修了した方々により、ライティングを受注するママライターのチームが形成されつつあります。糸島市役所からのライティングの仕事では、糸島市の子育て情報ウェブサイト「いとネット」に掲載するコンテンツの取材、撮影、執筆に取り組んでいます。最近では地元タウン誌「マイタウン伊都」からも1コーナーを任せていただけることになりました。

中本氏:これまでは糸島からの情報発信に必要とされる取材やライティングといった業務は、隣の福岡市内の業者に委託されるケースが少なくありませんでした。今後糸島からの情報発信では、市内で発注から納品まで行う「地産地消モデル」が増えていけばと思います。

―ライターの中村さんにお聞きします。前原テレワークセンターを利用してみた感想を教えてください。

中村氏:この場所はグループでお互い顔を見ながら意見交換ができるので、私のようなビギナーにとってはとてもありがたい存在です。クラウドソーシングを通じてライティングの仕事を受注する場合だと「どこから何をしたらいいんだろう」と不安になりますが、ここなら分からないことも直接聞け、もし問題が生じてもチーム内で解決できます。

尾崎氏:私は以前、たくさんのライティング案件を1人で抱えていました。今はチームワークで仕事をシェアし、品質を担保しつつ、1人の負担を軽減できるので、安心感につながっています。

中本氏:チーム化することで発注側にも受注側にもメリットが生じているようですね。ライターそれぞれ能力が異なりますし、また日本は個人に直接発注する形だと、受注する側は自由に働ける立場なのに、依頼主の都合に合わせてしまう「雇用制」ともいえるような関係になりがちです。

佐藤氏:子育てを経験すると、働き方や仕事に対する価値観に変化が生まれます。そこから新しい物を学びたいという意欲が湧き、それが仕事に直結するようになると生活も豊かになっていく。私個人の実績として「テレワークとコワーキングが子育て期の女性にとってどういった有効性があるか」という主旨の論文を上梓し、女性の働き方や仕事の創出について理解を深めてきたと思います。少しずつ利用者層を広げていけるのではないかと感じています。

4. 糸島市から福岡市への通勤者も利用できるサテライトオフィスに

テレワークセンター外観。

―現在どのような課題、または目標をお持ちでしょうか。

尾崎氏:安定的な仕事の受注です。糸島市の事業者や活動している人の価値を高める情報発信を担いたいです。ゆくゆくはママの視点を生かしたマーケティングにも関わっていきたいのですが、今は無理せずに体制を整えていくつもりです。

中本氏:サテライトオフィスを利用する企業を増やしたいと思っています。都市部から糸島市への移住者が活動する拠点として使ってもらえればと。また、糸島市から福岡市に通勤する方は多いのですが、全国的にも在宅勤務等のテレワークの普及が進んでいません。2020年に向けて政府はテレワークの導入を拡大する目標を掲げて「働き方改革」を強力に進めています。今後、福岡市内の企業の在宅勤務制度の導入も進んでいきます。その際に自宅での勤務とともに、施設の整ったサテライトオフィスとして、前原のセンターが受け皿になればと思っています。

佐藤氏:すでに在宅ワーカーとして家で快適に仕事をしている方にも、テレワークセンターをもっと活用してほしいと思っています。

尾崎氏:私も移動時間が惜しいときは家で作業します。デザイナーさんなど資料が多い方などもテレワークセンターの頻繁な利用は難しいのかもしれません。気分を変えて集中したい時や打合せ、出先での隙間時間などにも使える「そこにあるから安心」という存在感を価値とみてもいいのでは。
ライティングに限らず、子供の近くで働けたり、交流したり、仕事のコラボやシェアのできる場にしていきたいです。

―最後に結びの一言、または「ふるさとテレワーク」の利用を検討している個人や企業の方へメッセージをお願いします。

中本氏:テレワークの利点は、単に最新のオフィス環境を地方で実現する取組みだけにとどまりません。地域に寄り添い、その土地ならではの魅力を地元の人と分かち合うことが可能です。その上で地域のスタイルに合わせたテレワークを、地域と一緒に走りながら進めていくことが大切だと考えています。

佐藤氏:受け売りの言葉ですが「各地域で女性が変わっていくと社会全体が変わっていく」。テレワークセンターの利用は女性の自律的なキャリア形成を促すもので、私たちはその機会を提供していきたいと願っています。

尾崎氏:サテライトオフィスは地元の人間が関わっていないと、立ち寄りにくい場所になってしまいます。地元で暮らし、働きたいと思う人にとって、役立ち、盛り上げていけるような環境を作っていきたいと思っています。

お問合せ先
日本テレワーク協会 中本 nakamotoh@japan-telework.or.jp

ママトコワーキングスペースfacebookページ 別ウィンドウで開きます

(参考)平成28年度予算補助事業の取組内容はこちら